経済産業省産業技術環境局国際室長 小山雅臣氏
RD20(Research and Development 20 for clean energy technologies)は、2019年1月のダボス会議での安倍首相(当時)の発言が端緒となったもので、同年6月に軽井沢で開催されたG20エネルギー環境大臣会合の共同声明で設置が歓迎されたもの。G20の国立研究機関がエネルギー転換と地球環境に関する会議を行う、という国際的な枠組みとして決まった。経済産業省が政府として主導し、独立行政法人の産業技術総合研究所が会議運営の主体となった。経済産業省産業技術環境局国際室長の小山雅臣氏(写真)にこれまでやってきたRD20をベースに今年のRD20 2022をどのような方向に持っていこうとしているのか、その狙いを聞いた。
2019年の第1回会合以来、RD20は会議を中心にやってきた。環境に優しいテクノロジーを各国がどう進めていくかを発表してきた講演では、国際協力という言葉がいろいろな国から聞こえてくるようになった。事実、フランスやインドなどの国立研究所のリーダーたちは、環境問題を解決するためには各国共通の問題を認識し、問題解決のためには1国だけではなく、国際協力が必要であることを訴求してきた。
経産省は、こういった声を聞きながら、各国との共同研究を成功させるための枠組み作りに乗り出そうと考えた。今年は、単なる会議ではなく、1年間を通した活動としようということで、関係機関と議論している。1回の会議から通年で活動するイニシアティブへ、産総研の役割は会議運営のオーナーシップから、イニシアティブのリーダーシップへと変わろうとしたいという。
イニシアティブでは、会議だけではなく年間を通した活動、例えば共同研究の実施へとつなげていきたい、と小山氏は述べる。従来の2ヵ国間だけではなく、G20の20ヵ国 の研究者同士での共同研究活動などができるような、適切なガバナンスを含む仕組みなどを作りたいと考えている。ただし、組織を作るというのではなく、イニシアティブとして意思をどう決定するか、という意味でのガバナンスである。例えば、ワーキンググループが必要ならばそれを作るためのルールを決めようという訳だ。
日本政府は、2020年10月に2050年までにカーボンニュートラルを達成するという宣言を行い、2021年4月には2030年度までに温室効果ガスを46%削減するという目標を掲げた。首相指示により、経産省が中心となって、2022年5月にクリーンエネルギー戦略(中間整理)をまとめた。ここでは、成長が期待される産業ごとの具体的な道筋、需要サイドのエネルギー転換、クリーンエネルギー中心の経済社会・産業構造の転換に向けた政策対応などについて整理している。
クリーンエネルギー戦略の総理指示では、地域社会などが主体的に進めている脱炭素の取り組みを支援したり、国民の理解の促進や暮らしの変革などを環境大臣が検討、そのほかの関係大臣はそれぞれの担当分野から積極的に貢献するよう指示が出ている。それらを受けて各省庁の検討が進んでいる。そして、経産省が全体を取りまとめることになっている。
2020年1月に策定された革新的環境イノベーション戦略においては、目標実現のため関係会合を定期的に開催することになっており、RD20もこの中に含まれている。この戦略は、三つのプランから出来ている。その一つ「イノベーションアクションプラン」では、この中で取り組んでいる革新的技術に関する国内外の最新情報の共有や、また「アクセラレーションプラン」では、国際的な共創の機会拡充やクリーンファイナンスの促進などを図っている。こういったことを、定期的に関係会合を通して実行していくという。
「RD20でもこれまでの会合ベースで、最新情報の共有や共創の機会拡充を図ってきたので、定期的な関係会合の一つとしてこの革新的環境イノベーション戦略に沿っている。特に、気候変動問題は1カ所の問題ではなく、地球規模の問題であるため、世界中が協力して問題解決に向かわなければならない。それにも協力することで解決を加速させることができる」と小山氏は見ている。
問題を解決するためのロードマップは、実は革新的環境イノベーション戦略の前から検討していた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で掲げており、ここに14の分野を指定し、2050年までのロードマップを描いているが、これらを踏襲したものだという。指定された14の分野は、洋上風力や水素など4つのエネルギー関連産業と、自動車・蓄電池や半導体・情報通信など7つの輸送・製造関連産業、そして住宅・建築物や資源循環関連など3つの家庭・オフィス関連産業からなる。2020年12月に発表された。この中には水素のロードマップも含まれている。
今年のRD20のテーマの一つになる可能性のある水素に関しては、水素を取り出すのにかかるコストの問題がある。水素自身は火力発電の代替としてCO2を出さないことがキーとなる。また、天然ガスと水素を混ぜて燃焼することも可能であるから、最初は混合ガスではじめ、徐々に水素だけに持っていくという手もある。
加えて、水素はMIRAIのようなクルマの燃料電池にも使える上に、製鉄での水素還元にも使える。CO2を減らせない分野で水素を活用するという応用について考えてきたという。実用化するためには、いろいろな所でのコスト削減が重要で、市場を作ること、生産すること、輸送すること、これら全てにおいて、同時にコスト削減を図っていく必要がある。
例えば、技術開発には総額約2兆円の「グリーンイノベーション基金」を2021年に作った。再生可能エネルギーを使って水素を作るために水分解装置が必要で、大型化あるいはモジュール化する必要がある。こういった技術開発に、この基金を活用して、コスト削減に活かす。
また、水素を取り出すために生成されるCO2ガスを地下に埋める場所が日本には少ない。水素はある程度輸入しなければ量を確保できないだろうと見る。その場合には、水素の輸送に関する技術開発が求められ、国際的なサプライチェーンを作ることになる。今年2月にオーストラリアから神戸に運んできた実績がある。
ただし、液化して運搬する場合には冷却コストがかさむため大型化してスケールメリットを出す必要があるだろう。アンモニアやメチルシクロヘキサンに変えるなどの形を変えて通常のケミカルタンカーで輸送する方法もある。また、オーストラリアでは、水素製造時に発生するCO2を使われなくなったガス田に埋めるという手もある。
低コスト化の問題には、2030年での販売価格を0℃、1気圧で1立方メートル当たり30円を目指す。生産から輸送まで含むサプライチェーンを整備し、全体でコストを下げることを考えていく。今後、支援や、コストを下げるようなもっと具体的な議論を進めていきたいとする。
セミコンポータル 編集長 津田健二