Special Interviews
2023.08.25
第11回
「RD20は重要な国際協力」-エビデンスデータを取得し政策を作るためのEUのJoint Research Centre
JRC(Joint Research Centre)C部門 エネルギー効率・再生可能エネルギー部門長 Christian Thiel氏
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「RD20は重要な国際協力」-エビデンスデータを取得し政策を作るためのEUのJoint Research Centre

欧州連合(EU)の行政執行機関であるEC(欧州委員会)に研究機関JRC(Joint Research Centre)がある。JRCの中にある組織、エネルギー・モビリティ・気象を担当するJRC C部門で、エネルギー効率・再生可能エネルギー部を束ねるのはChristian Thiel氏である。JRCは、さまざまな技術や研究テーマでのポリシーを決めるための組織で、その裏付けとなるエビデンスを求めて研究も行っている。そのために欧州域内だけではなく、世界中の研究所とも協力する。RD20もその一連のコラボレーションの一つとなる。Thiel氏にJRCの役割とRD20に対する期待を聞いた。

JRC(Joint Research Centre)
C部門 エネルギー効率・
再生可能エネルギー部門長
Christian Thiel氏
図1 Joint Research Centre

Christian Thiel氏の属するJRC(図1)は、政策レビューサイクルのさまざまな段階で重要な役割を持っている。ほかのECの部門やEUの研究所や局、欧州域内や、RD20などの国際的な組織や政策機構と一緒に密に作業している。JRCのミッションは、エビデンス(科学的裏付け)ベースの知識と科学的な内容を独立に提供し、EUのポリシーをサポートし社会に好ましい影響を与えることだという。このため全ての研究は政策と紐づけされており、研究だけしているような基礎研究とは違う。そして彼が長を務めるエネルギー効率と再生可能エネルギーユニット部門は、エネルギー効率を高め、再生可能エネルギーに関連する政策をしっかりサポートするための科学的なエビデンスに重点を置いている。

この政策にはいくつかの中心となる柱がある。一つはイノベーション政策で、「ホライゾンヨーロッパ」と呼ぶ研究開発フレームワークのプログラムだ。JRCはイノベーション資金を通して研究開発をサポートする。温室効果ガスの削減を進め、規制や指令(Directives)にも関与している。2030年までにEUのターゲットとしている地球規模のエネルギー指令はその一つである。EUの JRCは、各国の基礎研究機関と違って、政策とリンクした研究所なのだ。エビデンスデータを取得し解析し科学的な裏付けを肉付けする研究所であるが、政策にそれらの知識を生かしていく。

その例として、JRCにはソーラーパネルをテストする施設がある。このESTI(European Solar Test Installation)は、太陽電池(Photovoltaic)デバイスの校正やエネルギー生成を確認する施設だ(図2)。ESTIは、太陽電池製品の電気的性能や信頼性を評価するための国際標準を策定する最先端施設である。標準化もサポート、ソーラーモジュールのエネルギー定格の規格を決めた。一般国民や投資家にもわかりやすい規格となった。「ソーラーデバイスのピークパワー性能とエネルギー定格の基準・標準を決めたことで、一般消費者にも自分の屋根のソーラーシステムの電力を知ることができるようになった」という。これらの数字は誰でも見られるようにしている。

図2 ソーラーパネルをテストするESTI(European Solar Test Installation)

エネルギー効率を上げる研究にも投資する。太陽電池製品でも例えば、両面ソーラーモジュールは従来の片面モジュール方式よりも発電性能を上げられる可能性がある。裏面側からの光の入射にも対応できるからだ。そのような両面タイプのソーラーパネルを試験するための太陽光シミュレータもある(図3)。SPIREと呼ぶ長期パルスのソーラーシミュレータは大きさ1.5m×2mのモジュールをテストでき、LED光と組み合わせると、パネルの両面を同時にテストできる。パネルでは従来のシリコン結晶だけではなく、ペロブスカイト構造の有機フィルムの測定技術についても扱っている。

EU特有のテーマとして、欧州のグリーンディールに焦点を当てたいと思う、とThiel氏は述べる。つまりECが2019年12月に発表した気候変動対策として産業競争力を維持しながら2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指すというものだ。グリーンディールが欧州特有とは言えないかもしれないが、気候変動と環境の劣化を地球規模で、将来を見ながら解決しようというやり方は注目すべきことだろう。欧州のグリーンディールは、EUを近代的で資源を有効に使い競争力のある経済に変換する。確認しておくことは、次の三つだ;
            ・2050年までに温室効果ガスの排出が実質なくなる
            ・資源利用とは独立に切り離された経済成長
            ・誰もどの地域も置き去りにしない
JRCの仕事は、欧州グリーンディールの目的を実行するのに役に立つ。期待と統合、インパクトというJRCの手法を通して、エビデンスに基づく決定をサポートするため、政策立案者に最良の科学情報をタイムリーに提供されることを確信している。

図3 JRCに設置された定常状態のソーラーシミュレータ 出典:Joint Research Centre

RD20との関わり

RD20では、JRC総裁のStephen Quest氏が昨年リーダーズセッションで短い講演を行った。EUがとった具体的なアクションに科学的な根拠がいかに伴っていたかについて説明し、受け入れやすく、セキュアで持続可能なエネルギーミックスを作り、気候的にニュートラルな経済に向け2050年までに変換していくと述べている。

さらに広く市民に受け入れられ、市民も参加するような役割についても触れ、これらは気候変動にやさしく、気候ニュートラルなソリューションを取り入れるためのカギとなるという。こういった文脈から、RD20はクリーンエネルギーの国際協力を進める枠組みとしてJRCは歓迎すると述べた。

Thiel氏は、昨年のRD20のテクニカルセッションでモデレータを務め、再生可能エネルギーに関する情報を提供した。「JRCは、リーダー的な日本やその他の国々の研究機関と優れた協力を続けることによって、ソーラーと水素の世界標準を一緒に推進し、ほかのエネルギー研究の知識も進めながら、RD20の目的に沿って貢献し続ける。共通のソリューションを共に生み出すことによって、RD20イニシアティブの目に見える結果を早く出せるだろう」とThiel氏は述べている。JRCは、最良の実践と研究所を相互に比較したり、共同研究作業を支援したり、研究者を相互交換したりすることによってこれをサポートする用意ができているという。サマースクールにも参加し、今年の7月に学生やシニア研究者などを初めてサマースクールに送り込んだ。

RD20の組織運営に感心

これまでのRD20のテクニカルセッションやリーダーズセッションの組織はとても素晴らしく拍手を送りたいとThiel氏は言う。日本側の対応や、やり方を高く評価しており、とても良い話し合いやネットワーキングができたという。特に感心したことは、Covid-19感染の真っ最中で、ハイブリッドで開催したこと。しかも提案されたアクションは、具体化され、ソーラーや水素のタスクフォースを生み出し、サマースクールの実現という結果を出したことにも驚いたとしている。

Thiel氏は、今年のRD20において、ソーラーと関係する環境およびLCA(ライフサイクル評価)に関するテクニカルセッションのモデレータになる予定だ。このセッションでは、JRCの研究者がアグリ-ソーラー(日本では営農型ソーラー発電)に関してプレゼンするという。バイオダイバーシティのような持続可能な見地を支援するような、エネルギーと食料を同時に供給する革新的なソリューションの事例について講演する。

RD20をさらに発展させるアイデアについて聞いてみると、RD20会議でのディスカッションはさらに協力しやすく、RD20の参加機関が共同でアクションをとれるようになっているという。タスクフォースという良い例があり、これらの成功に基づいてアイデアを実行に移せるようになるだろうと見る。同氏は、個人的な意見だがと断ったうえで、RD20の他の研究機関の人たちと、社会的な見地や行動科学、市民参加というテーマで、ブレーンストーミングをやってみたいという。市民参加に関しては、欧州でのエネルギーコミュニティで素晴らしい事例がいくつかあり、紹介したいとThiel氏は考えている。

セミコンポータル 編集長 津田健二