クリーンエネルギーを単なる研究開発からさらに一歩踏み込んで、商用化するための実装とデモストレーションまで踏み込んで投資や支援を行う世界的な組織がある。Mission Innovationだ。クリーンエネルギーの実用化に賛同する世界24ヵ国・地域の政府機関と、7つの国際機関をメンバーとして構成されている。研究開発主体のRD20にも参加しており、最終的にゼロエミッションのクリーンエネルギーを世界中で実現するための投資や支援を行う。Mission Innovationの運営委員会議長のJulie Cerqueira氏にその活動について聞いた。
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催された2015年11月にパリ協定が採択され、Mission Innovationはその時に発足した組織である。このため参加メンバーは、RD20のような研究機関を備えている国である。米国、オーストラリアやカナダ、チリ、中国、インド、英国、フランス、EU、日本、アラブ首長国連邦など24ヵ国・地域のメンバー国に加え、世界銀行グループやBreakthrough Energy、IEA(International Energy Agency)など7つの国際機構もメンバーとなっている。(Cerqueira氏)
Mission Innovationは、クリーンな技術革新に向かうための公的資金を増やす目的で8年前に設立された。単なる研究開発だけではなく、実行に移すことを含め、RD&D(Research, development and demonstration)と表現している。
Mission Innovationには、国、企業、投資家、研究機関などが、クリーンエネルギーの特定の分野を支援するアライアンスに参加するミッション(各分野の実行委員会)があり、ゼロエミッションの船舶技術や、クリーン水素、グリーン電力の未来、CO2除去、都市変革、ネットゼロ産業、統合バイオリファイナリー、という7つのミッショングループがある。例えばクリーン水素のミッションでは、クリーン水素生成コストを2030年までに2ドル/kgに下げることで競争力をつけることを目的としている。現状では化石燃料を燃やして生成する水素の3倍もコストがかかっている。
さらに各ミッションが主導するテーマに沿って、世界各地にある機構や国々とも協力し、RD&Dを実行してきた試作品や開発技術などを披露する。地域ごとに異なる技術がここには含まれている。例えば、水素バレープラットフォームと呼ばれるイニシアティブは世界と協力し合い大規模な水素プロジェクト開発グループ向けのプラットフォームである。ここでは、世界各地で水素を生成するバレー(地域)を100地区特定する。それらは、革新的な水素のバリューチェーンを形成しており、それをもっと違う地域へ展開拡張していき、コストを下げようとするものだ。
燃料電池産業界の例では、EC(欧州委員会)が主導するクリーン水素パートナーシップに研究機関やコンサルティングが参加している。
公的機関が技術開発に投資しており、民間機関の参加を促しインセンティブを与えている。民間企業の研究所は、研究機関のエンジニアや大学関係者と共に技術開発を進めている。Mission Innovationは、技術革新に深く係わりながらも実用化を重視する。だから国際機関とも協力し合い、各国政府に目標に達するように支援するのだとCerqueira氏は語る。
Mission Innovationの設立当初は技術革新に注力していたが、今はその実装に注力しており、2030年の目標を見ながら具体的な目標数字を測定するようになった。
Mission Innovationは、最初の5年間クリーンな技術革新への公的資金を増やそうとしてきた。毎年58億ドルずつ増やそうとしてきたが、5年間で180億ドルまで貯まった。この間、カナダとチリ、日本、オランダ、ノルウェー、そして英国が資金を2倍に上げてくれた。2022年には、米国主催の「世界クリーンエネルギー行動フォーラム」と名付けられた第7回ミッションイノベーションおよび第13回クリーンエネルギー大臣会合(Clean Energy Ministerial meeting (CEM))が、ペンシルベニア州ピッツバーグで開催された。フォーラムに先立ち、バイデン米大統領は各国にピッツバーグに来るよう呼びかけ、クリーンエネルギー技術のデモストレーションに900億ドル以上を求めた。2050年までのゼロ目標を達成するためには2026年までに900億ドル以上必要だったことがIEAの分析から分かったからだ。幸い昨年9月のMission Innovation閣僚会議では、940億ドルを集めることができた。
最初の5年間、Mission Innovationと政府は、ブレークスルー技術の鍵となる投資を推進するため民間とも一緒に手を組んでいた。現在世界の船舶全体で、ゼロカーボンの燃料で航行するグリーン船舶をあるパーセントまで実現するなど、チャレンジングなセクターや技術分野での変革に焦点をあてている。
Mission Innovationは多くのセクターに取り組むのではなく、競争力を高めるためのコストを削減し、有望なセクターにもっと注力するようになった。最近では、クリーンエネルギーの目標を達成するために必要な技術を開発しそれを使うために技術革新とコラボレーションにもっと投資している国も増えてきた。CEMのような姉妹組織と密接にかかわるようになってきた。クリーンエネルギーのRD&D(研究・開発・実装)にリソースを注ぐMission Innovationと共に、CEMは、Mission Innovationの社会実装にフォーカスしている。両者は、クリーンエネルギー技術のイノベーションから商用化への実現に重きを置いている。
お互いの目標に向け協力した例として、ゼロエミッション船舶の開発がある。CEMは低エミッションやゼロエミッションの燃料バリューチェーンへの投資リスクを軽減し、エネルギー・海洋のバリューチェーンの提携のためにセクター間の官民協力に注力している。船舶は、世界的なCO2排出の3%を担っているので、船舶を見直す船主がゼロエミッション船にフォーカスするのは自然の成り行きだろう。Mission Innovationは2030年の目標を達成するためにCEMとコラボレーションしてCO2削減を図っていく。
米国内では、技術のデモストレーションのための予算250億ドル以上が計上された。これらの予算の優先事項は、水素ハブの設置であり、Mission Innovationの目標である100の水素バレーへの貢献である。水素バレーは、クリーン水素の供給と需要の両方を増加させるプロジェクトと同じ場所に設置し、サポートする。今日の水素のほとんどは化石燃料に由来しているため、再生可能エネルギーや原子力などに由来する水素の実証を進めることが、水素のライフサイクル排出量を削減し、真の「グリーン」燃料になるための鍵となる。政府と民間部門はクリーン水素生産と用途拡大に大きな関心を示しているが、CO2削減の困難なセクターからの排出量削減の可能性があるためだ。解決すべき問題はまだあるが、国際コミュニティが重要技術を革新するため、Mission Innovationのプラットフォームを活用し、相互に協力、他のコミュニティから学ぶことが最良である、とCerqueira氏は言う。
「RD20は国際コラボレーションでイノベーションを促進し、カーボンニュートラルの社会の実現を支援するもので、そのゴールはMission Innovationと共にある。」とCerqueira氏は言う。今後10年で、最新技術を活用したクリーンエネルギーは、もっと受け入れられやすくなり、アクセスしやすくなるだろう。彼女は次のように言う。「Mission Innovationは7つのミッションと技術アドバイザリグループにより、世界中のネットゼロを推進し、RD20のような組織との新たな協調の機会を求め続け、同じゴールに向かって進むだろう。Mission InnovationとRD20との協力は継続し、共通のゴールであるクリーンエネルギー技術のRD&D の目標を共有する支援を継続していきたい」。と固い決意を語った。
セミコンポータル 編集長 津田建二