Special Interviews
2026.07.08
第28回
シンクロトロン放射光施設を駆使、新材料開発を推進するHelmholtz Zentrum Berlin
Prof. Dr. Bernd Rech, Scientific Director of Helmholtz-Zentrum Berlin
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シンクロトロン放射光施設を駆使、新材料開発を推進するHelmholtz Zentrum Berlin

 ドイツ最大の研究機関であるHelmholtz Associationは18のセンターで構成され4万8000名の人員を要する。その一つ、Helmholtz-Zentrum Berlin(HZB)は、2025年にRD 20の会員メンバーになった。将来に向け、気象変動を引き起こさないエネルギーを供給するための新材料開発と技術を開発する。物質を解明するシンクロトロン放射光施設BESSY-IIを持ち、世界中の研究者を惹きつけている。HZBの科学部門の責任者であるScientific DirectorのBernd Rech博士に、この研究所の活動とRD 20への期待について聞いた。

 約1500名のスタッフを抱えるHZB(英文名Helmholtz Center Berlin)では、フォトン(光子)科学から太陽電池、グリーン水素、持続可能燃料と化学物質、バッテリ、量子および機能材料、加速器研究、エネルギーシステムという7つの分野に関する研究を行っている。この内、「RD20に関するものでは、シンクロトロン放射光システムBESSY IIのような大規模研究インフラを使って、先端エネルギー材料や最新のキャラクタリゼーション(特性評価)に関する研究に貢献してきました」。Bernd Rech博士はこのように語る。
 ペロブスカイト材料のような次世代太陽エネルギー変換デバイスの材料をはじめ、リチウム-硫黄やナトリウム電池などのバッテリ材料、さらには水素技術やカーボンニュートラルな燃料などにも注力している。

Helmholtz-Zentrum Berlin
科学部門の責任者 Scientific Director
Bernd Rech博士

シンクロトロン放射光の威力を発揮

BESSY II Light Source
Copyright HZB/Industriefotografie Steinbach
(Hzb-bessy-sst-2020—004)

 こういった新しい材料開発とキャラクタリゼーションに欠かせないツールがシンクロトロン放射光装置(あるいは施設)である。この装置は、X線を物質に照射し、X線の回折・散乱によって物質の構造を解析したり、物質によって吸収・放出されるX線の波長から物質の電子状態や結合状態などの情報を得る分光分析を行う。X線は電子を加速器で加速させ、磁界で急速に曲げるときに発生するため、高いエネルギーのX線を出すことができる。国内でも兵庫県にあるSPring-8が同様のシンクロトロン放射光装置だ。

 HZBが所有するシンクロトロン放射装置BESSY IIは、ソフトX線を出力するため、物質の結晶構造よりも分光分析に強い。化学結合状態を観測するとか、何が起きているかなどの情報が得ることができる。例えば、ナトリウムイオンバッテリではその安定性を見るために外国からやってくる研究者が多い。またソーラーセル材料の半導体界面を研究するユーザーもいる。
 同研究所は、実際に動作させている状態での材料の特性を計測する手法(オペランド技術)を開発してきた。加えて、AIを活用して材料の特定や実験を行い、新材料の開発を支援した。

AIは新材料の開発期間を短縮

 「AIベースの技術として一つ紹介します。自動運転研究プロジェクトの一つを、6月11日に立ち上げるところですが、高いスループットでスクリーニングして新しい触媒を開発します。AIツールを使って評価を早め、次に何をすべきか次のステップを予測します。このプロジェクトでは複数機関のパートナーと一緒に共同で行います。例えばキーパートナーとして、Max-Planck研究機構のFritz Haber Institute in Berlinや、技術大学がいます。さらに産業界、たとえば大手企業のBASFやSiemens Energy、AIスタートアップのDunia AIともパートナーを組んでいます」とRech博士は言う。
 HZB研究所は、材料の研究開発を推進する一方で、幅広い国際ユーザーの研究者たちにシンクロトロン装置の使用を開放している。欧州や域外のパートナーとも密に共同開発している点は、RD20の概念と同じだという。例えば、HZBでは南アフリカ共和国のケープタウン大学とサステナブルな航空燃料や環境にやさしい料理用のガスの研究を行っている。面白いことに次のRD20会議の開催地が南アフリカ共和国なので、HZBのパートナーとの絆が深まると期待している。
 HZBではBESSY IIを使ってたんぱく質の構造特性を評価してきており、さらにAIも使ってクリーンエネルギーに必要な新材料を早く見つける。まだ発見されていない材料は山ほどある。例えば、レドックスフロー型畜電池用の有機材料の開発中であり、まだ人類が知らない新材料を、AIを使って見つけ出すことに大いに期待しているという。

ペロブスカイトセルの劣化を解決へ

 HZBでは、効率の高いペロブスカイト構造のソーラーセルに注力している。ペロブスカイト材料だけではなく、ペロブスカイト膜とシリコンとのタンデム構造のソーラーセルやペロブスカイトをベースにした多接合のソーラーセルも手掛けている。ただ、ペロブスカイトソーラーセルでは、長期使用での劣化という問題がある。この問題を克服するため、この研究所では、屋外使用での安定性をテストと評価を始めている。実は同研究所の屋根にペロブスカイトのソーラーセルを設置して4年以上経過した。世界的にも長い実試験の一つである。

Research on perovskite solar cell
Copyright HZB/Michael Setzpfand (MIS_8360)

 同研究所としても、ペロブスカイトソーラーセルの安定性こそが来年以降のキートピックスとなるとRech博士は見ており、ペロブスカイトセル固有の不安定性と、封止材料との界面の不安定性なのかを切り離して解決しようと試みている。

Outdoor laboratory
The HZB team operates an outdoor laboratory at HZB where a wide variety of solar cells are exposed to wind and weather under real-world conditions for months or years
Copyright HZB/Industriefotografie Steinbach (Hzb-mess-station-solarzellen-is-07-2025-006)

「RD 20は一つのプラットフォーム」

 同博士はRD20に対する期待も大きい。「RD20の最大の特長は、世界の先端研究所とつながっており、科学とイノベーションを通してカーボンニュートラルを達成するという共通の目的を共有している点です。ここに最大の価値があります」と同博士は述べる。しかも世界的な研究所が集まって、アイデアを各国に持ち帰り、全地球のために貢献しようという動機づけがある。「RD20は研究者たちが知識を共有し研究のインフラをみんなに知らせ実行するという、一つのプラットフォームでもあります」とRech博士は考えている。
 さらに、このプラットフォームは、科学的な発見につながるインパクトを示す良い機会でもある。そのキモはコラボレーションである。そこにAI(人工知能)を使って材料開発の候補を絞り込み開発スピードを上げていく。
 Rech博士は次のように述べている。「RD 20に期待することは、世界の研究者たち参加メンバーたちとの強力な意見交換であり、産総研などとのその後の共同研究です。近藤道雄教授とは、20年以上にわたる長い付き合いをさせていただいています。米国でも旧NREL(国立再生可能エネルギー研究所)の現NLR(National Laboratory of the Rockies)との付き合いがあります。昨年日本のRD20に出席した時、NRLとHZBとの協力を強化できるチャンスだと思いました。RD20の会議から有益な情報を得られますし、当研究所の価値ある情報を提供したいと思います。長年RD20を近藤氏と一緒にRD20の運営に携わってきNRELの元所長Martin Keller氏は今やHelmholtz Association(協会)の会長です」。
 「今年のRD 20には、自分が行けるかどうかまだ確かではありませんが、どなたか研究者を開催国の南アフリカ共和国に派遣したいと思います。先ほど述べたようにHZBは南アフリカの研究所や大学、SASOLのような企業とも共同で開発しているからです。主なトピックとしては、SAF(持続可能航空燃料)や、世界的なエネルギー・化学企業の大手SASOLとの新規触媒開発などがあります。先日、今年のRD20で講演するテーマについて話し合いましたが、同国のパートナーとの共同開発という点でGreenQuestプロジェクトについて話をしようと思います。これは、家庭で使う持続可能な調理用ガスの開発についての研究です。もっときれいな調理用ガスを普及させることは地球の気候と人々の健康にとっても重要なことです」。

セミコンポータル 編集長 津田建二