Special Interviews
2026.07.31
第29回
エネルギー問題は電気/電子/機械からAIやDXに拡大、コラボが鍵を握るTubitak
Dr. Dogan Gezer, the coordinator representing the Energy Technologies Division at Tubitak MAM
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エネルギー問題は電気/電子/機械からAIやDXに拡大、コラボが鍵を握るTubitak

トルコ最大の公的研究機関であるTubitak(科学技術研究協議会)は、研究開発機関であると同時に、科学研究と技術革新を支援する役割も持っている。Tubitakには7つの研究機関があり、持続可能なカーボンニュートラルなエネルギーを研究する。Tubitak MAM(Marmara Research Center)は7つの研究機関の一つ。このTubitak MAMのエネルギー技術部門を代表するコーディネータのDogan Gezer博士は電気・電子エンジニアであり、再生可能エネルギー技術や水力発電技術の専門家でもある。Dogan Gezer博士に、この研究所の活動とRD 20への期待について聞いた。

Tubitakは、研究所といっても単なる科学技術の論文を書き発表するような研究所ではない。研究成果をテクノロジーに変換することがゴールだ、とGezer氏は言う。テクノロジーは産業界で使われ、それにより国家のエネルギー政策に貢献し最終的に経済的な価値を生み出すようにする。
 「しかも現在は様々な分野の専門知識が必要な構造になってきた。エネルギー問題はこれまでと違って、純粋に電子・電気や機械の問題だけではなくなっている。AI(人工知能)やパワーエレクトロニクス、材料、化学、水素技術、デジタルシステム、サイバーセキュリティなど様々な分野の知識が求められる時代になってきた。自分たちの研究エコシステムを構成して皆と一緒に解決していかなければならない」と述べる。

写真:Tubitak MAMのエネルギー技術部門を代表するコーディネータのDogan Gezer博士

4つのテーマの中にAIも

Gezer博士のエネルギー技術部門には4つのチームがある。一つは再生可能エネルギーとグリッドインテグレーションのチームだ。再生可能エネルギーが浸透していくにつれ、電力の変動が大きくなり複雑になってくる。このため、柔軟にもっと安定性を確保し最新エレクトロニクスを使って信頼できる技術を開発していく。

二つ目のテーマはデジタル化とAIである。このため、デジタルツインやAIベースの予測、予知保全、最適化技術、インテリジェントなエネルギー管理システムを開発している。しかも「AIは単なる予測を得るためのものではなく、信頼できるアシスタントとして使い、もっと早くもっと優れた決定を行うために使う。そしてAIを管理するのはやはり人間である」とGezer博士は述べている。
三つ目のテーマは、エネルギーの保存と水素技術である。現在は、蓄電池システムとパワーエレクトロニクス、水素発生・利用の技術について開発している。カーボンニュートラルにはこれらの技術は重要になってくる。
そして四番目が、SMR(モジュラー方式の小型原子炉)など次世代のカーボンニュートラル技術の研究である。カーボンニュートラルを目指す以上、これらの技術全てが求められるため、産業界と公的研究機関との共同開発を強める必要があるとしている。
以上のプロジェクトは、アカデミックな興味ではなく、現実の課題を解き始めている。例えば水力発電エネルギーの統合化のためのデジタルソリューションというテーマは、一団体だけでは解けない。Tubitakはトルコの運輸交通機関や製造業、官庁、さらには国際的なパートナーと一緒に開発していくという。

コラボが大事な時代に

これまでのTubitakのような研究所は、それぞれ専門的な研究テーマをそれぞれが扱ってきた。しかし、今日では研究テーマにかかわる電力システムの問題がますます複雑になり、一つの研究部門だけでは解決できなくなっている。
水力発電がエネルギーの20~30%を占めるトルコでは、国内レベルでエコシステムを設立してきた。水力発電所のための制御システムを開発するプロジェクトを15年前にスタートした。トルコ大学に水力発電用のタービンの設計を依頼し、それを製造してくれる企業を探した。つまりシステム開発者、設計者、製造企業がそれぞれいて、一つのチームとなる。

活用するAIはまずはDNNから

AIはどのように活用しているのだろうか。Nvidiaのジェンスン・フアンCEOが述べているようにAIのビッグバンが始まった2012年以降のAI(DNN:ディープラーニング)では、学習させるためのデータが必要で、そのデータを取るためのセンサも必要となる。Tubitak研究所では、センサの研究開発はしていないが、それらのセンサからのデータを処理するためのテクノロジーに重点を置いている。
再生可能エネルギーは変動が大きく、昼は発電するが夜はしない。一方で、電力は常に需給バランスがとれていなければならず、そのバランスを最適化するため、電力を予測する必要がある。
再生可能エネルギーが普及すればするほど電力の需給バランスは難しくなる。ソーラー電力、風力電力のような再生可能エネルギーによる電力は変動が大きく、制御することが難しい。
一方、需要側は、EV(電気自動車)の充電が増え、データセンターの消費量が増えるため電力需要は拡大している。そこで電力需要をある程度予測して、電力の需給バランスがとれるように供給量を最適化するというわけだ。

生成AIも活用

AIを使う事例はこれだけではない。例えば、LLM(大規模言語モデル)を使う生成AIの事例では、水力発電所のオペレータが働いているときにアラームが鳴るとしよう。オペレータはまずアラームが鳴っている警報源を探さなければならない。その場合分厚いドキュメントをめくってどこにあるかを探ることになる。オペレータが経験者ならすぐに見つかるだろうが、新人あるいは新配属の人ならAIアシスタントを使って、このアラームはなぜ鳴っているのかを尋ねることができる。
さらに、この状況下で稼働し続けるならどのようなリスクがあるのかを尋ねる。それも直感的にすぐわかるようにしなければならない。急を要するからだ。
Tubitakが想定しているAIはオペレータを支援するものであり、AIアシスタントは 装置のマニュアルやこれまでの操作データ、保守点検記録、これまでに起きた同様のイベントなどの情報を即座に結び付けることができる。しかし、AIアシスタントの答えを鵜呑みにするのではなく最終的には会社が判断すべきだろう。とはいえ、AIアシスタントを使うことで、判断の決定プロセスはこれまでよりもずっと簡単になる。
ただし、起きたイベント情報は送電センターに送り、それをベースにセンターがどの発電所が問題を起こしているのかを決める。彼らは、発電と負荷がどの程度不均衡なのかを評価し、どの発電所を稼働させるべきかを決める。もちろん、彼らはAIアシスタントに、いくつかのシナリオ(風力発電が例えば20%低下した場合など)に関して尋ねることもできる。同研究所はトルコの送電システム企業とコラボレーションしている。トルコの発電企業は、自分たちのためにLLMをベースにしたAIチャットボットを開発しようとしている。

LLMは分野ごとにローカル側で改良

「AIアシスタントは、発電所や他のエネルギー、ほかの研究所など個々の分野で生成すべきだと思う。もちろん、電力向けの汎用的モデルはあるだろうが、発電企業、送電システム企業、など各分野での要求は異なるため、電力向けの汎用モデルをカスタマイズしてそれぞれ学習させるべきだろう。LLMは汎用であるが、汎用だけでは専門分野の役に立ちにくい。LLMを自分の分野のシステムに合うように改良するのだ。同様な考え方は研究所でもある。当研究所では、この問題を解決するためのタスクフォースを設立した。送電分野の汎用モデル、水力発電向けの汎用モデル、水道局の汎用モデルなどのニーズを考えながらカスタマイズする」。とGezer氏は述べる。
これらのAIアシスタントはクラウドベースではなく、ローカルホスト側でLLMを動かすつもりだとしており、その狙いはセキュリティを確保するためだという。

RD20の魅力は異なる文化、コラボレーション

コラボレーションを重視するGezer氏は、RD20で2023年に日本に来たことがある。質の高い講演が多く、良い雰囲気だったという。それ以外でも22年、24年、25年とオンラインでミーティングにも出ていた。
今年のRD20は南アフリカ共和国の首都プレトリアで開催されるが、ここに2年前に訪問した。プレトリア大学の水力発電を専門とするMarco van Dijk教授が招待してくれた。現地の専門家たちとディスカッションするよい機会だった。
南アフリカは、欧州や日本とは異なり、信頼性が高く手ごろな価格のエネルギーインフラがまだできていないという問題を抱えている。今は石炭のよる発電であるため、再エネを自分たちで開発し、しかもカーボンニュートラルを実現するようなディスカッションに期待している。自分が行くなら対面でディスカッションできるのでうれしいが、また決まっていない。
RD20では様々な国から様々な研究機関が参加しており、異なる文化に接することができる。「みんながクリーンエネルギーへの転換を急ぎ、うまくいった話だけではなく各国が直面している問題についてもディスカッションできる。ここでの経験は極めて価値が高い」、と期待は大きい。
さらに、「来年はぜひ東京にも行きたい。当研究所は産総研と関係を持っておりエネルギーやグリッドなどに向けたAIを一緒に開発していきたい」と締めた。

セミコンポータル 編集長 津田建二