南アフリカ共和国は、プラチナやマンガン、ダイヤモンドなど資源の豊富な国であり、RD20には2022年も参加した。資源大国を生かし再生可能エネルギーで外国とさまざまな技術提携を続けてきた。RD20がテーマとするような脱炭素や再生可能エネルギーの普及には、先進国でも相補う協力関係を築くことに積極的である。南アフリカの科学産業研究機関CSIR(Council for Scientific and Industrial Research)のCEOであるThulani Dlamini博士にRD20への想いを聞いた。
2022年のRD20ではCSIRの紹介プレゼンテーションを行い、テクニカルセッションにも参加した。G20の多くの国々からの参加者との会合は極めて有意義で、クリーンな水素とその技術に関して発表した。セッションやパーティでの会話、テクニカルセッションからのフィードバックも有効で、様々な人たちとのネットワークの機会によってシナジー(相乗効果)の可能性を探ることができた、とCSIRのCEOであるThulani Dlamini氏は述べている。
CSIRの環境活動は多岐に渡る。気候変動や生態系の多様性、エコシステムの管理など環境を守るという姿勢で社会課題に取り組んでいる。循環経済を念頭に置き、南アフリカ経済との調和をとりながら、鉱業や製造業など多くの産業の側面にも注意を払っている。
特に、よりクリーンなエネルギーには関心がより高い。南アフリカは、電力エネルギーの80%が石炭火力である。このため、ソーラーや風力、水素などを取り入れ、エネルギー変換を図ることが今解決すべき問題だ、とDlamini氏は語る。
ソーラーは国内で急激に伸びていて、設置ベースで今6GW以上に達しているという。ソーラーも風力も資源は無限にあるからこそ、利用価値がある。
一方で、ソーラーや風力は変動が大きい。ソーラーは太陽光が出ている昼間しか発電しない。風力は風がある程度強い時しか発電しない。このためストレージ(蓄電池設備)が必要となる。しかし、ストレージは限られており、そのための投資が必要である。ストレージ問題はもっと議論を深める価値がある。
南アフリカでは、再生可能エネルギーや、ストレージ、投資は複雑な問題であり、簡単には解決しないが、長期的に計画していく必要がある。電力の8割を占める石炭の採掘には多くの労働人口が係わっており、雇用の問題もある。石炭発電は、質の良い発電所でもあるため同国の経済活動と、再生可能エネルギーへの変換の問題はさらに複雑になっている。それでも、脱炭素化と気候変動は地球規模の問題でもあり、同国だけで解決できる問題ではないが、「正しい方法で、解決していくしかないだろう」と述べている。
だからこそ、再生可能エネルギーでたくさんの国とプロジェクトレベルでコラボ活動をしている。例えば、特に欧州や米国など多くのパートナー企業や研究機関を持ち、再生可能エネルギーを開発している。「南アフリカのような(経済的に)小さな国では、国にとって必要なサービスを自力で開発することが難しいから、コラボレーションは我々には組織としてのカギとなる」と言う。
CSIRが力を入れているのは再エネのテクノロジー開発だけではない。研究所において今力を入れているテーマは多くのテクノロジーソリューションである。マイニングや、交通網、健康、安全保障などの技術開発である。ほかにエネルギー関連分野では、小規模の組込自己発電、マイクログリッド、シミュレーションのためのグリッドモデル化、グリッド解析、power-to-X, 炭素の捕捉と利用などにも力を入れている。マイクログリッドをどう公共(コミュニティ)とインテグレーションするか、スマートエネルギーシステムのデザインとオペレーションをどうするか、いろいろな電源(ソーラーや風力など)との異なる専門分野との最適化、専門分野の設備(再エネのストレージテストベッドやテストなど)、ソーラーシステムのテスト方法も検討している。さらに、CSIRでは、もっとも最適なエネルギーミックスを利用し、南アフリカにとって理想的なエネルギーミックスのシナリオを作るという仕事も行っている。
10月のRD20で南アフリカ特有のトピックは何かについて聞いてみると、グリーン水素とグリーン水素でのパートナーシップを結ぶ機会に関するディスカッションがトピックとなるようだ。「南アフリカは水素エネルギーに関して二つの点で非常に独特の位置にある」とDlamini氏は述べる。
一つは、ソーラーであり、水素生成にソーラーエネルギーを使う。泥炭から水素をとらない。自然エネルギーから水素を生成するグリーン水素である。もう一つは豊富に存在する白金(プラチナ、Pt)である。これは、燃料電池から水素に変換するための重要な触媒として欠かせない重要な元素だ。この二つが競争力のあるアドバンテージとなる。特に水素を諸外国へ輸出する場合の南アフリカが有利な点だ。
RD20 2023では、クリーン水素に関して何か講演するのかについて伺うと、「自分が話をするのかどうかはまだ決めていないが、チームの誰かがテクニカルディスカッションに参加するので、このテーマはトピックとなるだろう」と見ている。実際、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が企画運営したビジネスフォーラムがこの6月に開催され、南アフリカとオランダ、デンマークの3ヵ国で10億ドルのグリーン水素ファンドを立ち上げた。Dlamini氏が出席し、「ディスカッションの主なテーマは水素だった。このファンドは、我が国のグリーン水素プロジェクト開発の加速に間違いなく貢献するでしょう」と評価する。
RD20は、非常に有益なプラットフォームとなっており、グリーンエネルギーへの転換という地球規模の問題を技術的に議論する場であり、リーダーたちとも話し合える場である。「グローバルトレンドをアップデートする場としても極めて役に立つ」とDlamini氏は述べている。特に水素は今後重要な輸出製品になると共に、南アフリカの経済発展を急速に進めるドライバとなりうる。加えて、新エネルギーの確保という点でも持続可能なエネルギーは重要である。
RD20 2023では、カギとなる大規模革新プロジェクトを特定し、パートナーと一緒に推進したいと期待する。ある意味、RD20という研究者が集まるプラットフォームはとても重要で、世界各国の人たちとの話し合いの中からコラボレーションできる機会があり、友人たちとも再会できたことも別なコラボの機会につながる。CSIRが進めている、気候変動や温暖化の問題を解決していくための地球規模の協働プロジェクトを早く始めたいという気持ちを強く感じたという。「次は地球規模のメガプロジェクトを実行していく段階になりそうだ」と語っている。
セミコンポータル 編集長 津田健二