Special Interviews
2024.09.17
第17回
第6回 RD20:地域ごとに問題の違う海外を知る絶好の機会
豊田中央研究所 代表取締役 所長兼CRO 志満津 孝氏
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第6回 RD20:地域ごとに問題の違う海外を知る絶好の機会

RD 20には、各国の国立研究所が参加しているが、日本では産業技術総合研究所が運営を担当してきた。一方で産総研だけではなく民間の研究所からの参加を期待する声も強かった。豊田中央研究所 所長兼CRO(Chief Research Officer)の志満津孝氏は、これまでのRD 20への参加経験から、G20各国を代表する研究機関の代表者が同じテーブルで議論できる貴重な場であるとして、RD20へ大きな期待を寄せている。志満津氏に同社のカーボンニュートラル研究の取り組みについて伺うとともに、RD20への期待を伺った。

豊田中央研究所は、トヨタグループの企業9社(設立当時10社。現在の株式会社豊田自動織機、トヨタ自動車株式会社、愛知製鋼株式会社、株式会社ジェイテクト、トヨタ車体株式会社、豊田通商株式会社、株式会社アイシン、株式会社デンソー、トヨタ紡織株式会社)が株主となり1960年に設立された独立した研究機関である。
トヨタグループの中央研究所として、基礎科学から実践研究までの多様な研究領域を持ち、社会実装面では、グループ企業だけでなく、広く世の中に貢献することを会社理念としている

豊田中央研究所
代表取締役 所長兼CRO
志満津 孝氏

脱炭素への取り組み

現在のモノづくり産業においては、資源調達、生産活動、製品のライフサイクル全般にわたって環境負荷を最小化することが求められている。脱炭素化に向けた省エネルギー化や、再生可能エネルギーの効率的な利用はもちろんのこと、資源循環との両立のためCO2排出や資源消費を抑える技術や仕組みが必要とされている。
豊田中央研究所では、そのような技術を基礎科学の段階から取り組み、社会実装できるレベルまでつなげる実践的な研究が重要だと考えている。

日本国内における再生可能エネルギーの現状を鑑みると、国土の成り立ちなどから課題は多いながらも、再エネ導入の促進や広域連系系統の強化など積極的な取り組みが進められつつある。エネルギーの需要側となるモノづくり産業としても、地域や需要特性に合わせた需給体制の構築を進めていく必要がある。
そのためには、地域性はもちろん経済性、環境性の観点でも両立可能なエネルギーシナリオを、産学官の違いや産業セクターを超え、協働で構築することが重要となる。

そのような取り組みを支えるカギの一つが、社会システムのモデリング研究であると考えている。社会を構成するエネルギーシステム、電源構成や、モビリティ、その製造工場、地域ごとに必要とされる民生を含めたエネルギー需要を、エネルギー需給の観点で連成させ、経済性、環境性、地域性などの観点から最適となるシナリオを検討することの重要性がますます大きくなっている。豊田中央研究所では、様々な評価モデルを活用して、将来シナリオから導き出される要件にしたがって必要となる研究課題を設定することで、社会課題解決を起点とした研究開発の強化を目指している。またトヨタグループ各社と密な連携を行うことで、産業の現場で本質的に困っている問題を理解し、モノづくり技術・製品を通じて社会実装を進めている。この点は、企業研究所としての豊田中央研究所の特徴の一つと考えている。そして得られた研究成果を具現化するために、トヨタグループ各社と連携し社会実装を進めている。

国際連携

社会システムのモデリング研究においては、世界規模で研究を進めている国際研究機関との連携が重要であると考えている。
カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーを実現する上での必要条件は、各国の状況や環境条件などが異なるため、地域ごとに最適なソリューションやアプローチが異なっている。そのため必要とされる研究開発を進めるだけでなく,これからの社会のあり方や、社会制度設計そのものを検討していく必要がある。そのためには、世界各国の研究機関との対話を通じて、各地域に求められる状況や環境条件を理解した上で、研究開発動向や情報を把握し、多様なレベルでの連携や協業をしていくことが必要となる。

豊田中央研究所は、これまでにもRD20のメンバーでもあるドイツのフラウンホーファー研究機構や米国のNREL(国立再生可能エネルギー研究所)と燃料電池や水素、熱マネジメントなど様々なテーマで連携を進めてきた。各国のエネルギー事情や、社会制度が異なるように、それぞれの地域で得意とする研究も異なっている。そのため世界の研究機関を訪問し、胸襟を開いて対話することで、お互いの強みを活かしあう研究テーマを設定することの重要性を、これまでの連携を通じて実感してきた。
特に社会システムのモデリングやLCAなどの研究テーマは、地域性という観点でも網羅性という観点においても国際連携は欠かせない。そのため豊田中央研究所の研究者を、直接海外研究機関に派遣することで、研究ネットワークづくりを進めている。

また、G20参加国を代表する研究機関が一堂に会してカーボンニュートラルについて議論が進められているという点においてRD20は重要な場であると考えている。世界規模で研究を進めている国際研究機関がより大きな枠組みで連携するきっかけとして、RD20には大いに期待している。

RD20への期待

カーボンニュートラルや資源循環のような研究課題では社会実装がそのゴールとなる。これらの領域では、要素技術を積み上げるだけではなく、社会実装までの研究を一気通貫で行うことが重要だと考えている。これまでにも産総研とは日本におけるエネルギーシステムを対象とした研究と、その社会実装を目指し、連携を進めてきた。
一方、国内には他にも社会実装につながる優れた技術が数多くある。このような取り組みを発信し、世界中の研究機関と共有することで、社会の役に立てていきたいという想いがある。各国の優れた研究成果やユースケースを海外に情報発信していく上で、RD20が社会実装につながる起点となることを期待している。また引き続きRD20加盟の研究機関との意見交換を継続していきたい。