地中海にせり出した半島の国、イタリア。この国の応用研究を担うのは国立研究所のENEA(Italian National Agency for New Technologies, Energy and Sustainable Economic Development)である。首都ローマに拠点を置き、政府の環境・エネルギー安全省に属する研究所で主にエネルギー技術や将来に向けたクリーンな核融合技術に関しても推進する。研究開発のトップマネージメントを務めるDirector GeneralのGiorgio Graditi氏にこの研究所の役割やRD20へ参加してきた印象などを聞いた。
イタリアの国立研究所ENEAが注力する分野は、エネルギーや環境保護、技術移転、持続可能な経済発展である。特に革新的なエネルギー技術や再生可能エネルギー源、エネルギーのストレージや配電などに力を入れている。エネルギー源では、革新的で持続可能な核分裂、核融合、安全性の高いエネルギー効率なども追求している。ENEA研究所には、質の高い研究者がいる上に、先端研究所、実験プラットフォーム、最新設備なども備えている。ENEAは応用研究の一環として、エネルギー転換を推進するためのデジタル化とスマート テクノロジーに取り組んでおり、再生可能エネルギーの統合と効率的な利用を進めるとともに、エネルギー バリュー チェーン全体にわたり市民、産業界、さまざまな関係者の積極的な参加を養成することを目指している。この文脈において、ENEAはスマート グリッド、スマート シティ、スマート モビリティを実現するための試作品ソリューションを設計・開発している。
現在11の研究センターがあり、そこに働く2300名の人員を雇用している。
また、研究活動では国内外のコラボレーションも進めており、産業界やアカデミアとのパートナーシップを結び、エネルギー変革に注力した研究を協力している。研究活動の目的は、エネルギー生産システムをよりグリーンにすることをもっと浸透させることであり、再生可能エネルギーから電気と熱のエネルギーをさらに拡大していく。
エネルギーとしての電力網のフレキシビリティとレジリエンシーを高めることも重要で、基本的な分野で革新的なエネルギー変換システムの再生可能エネルギーの普及を高めていく。ENEAは、水素サプライチェーンとエネルギー貯蔵システム関連の革新的な技術を導入して、コスト、エネルギー使用量、汚染を削減し、社会の環境的、経済的利益を向上することを目的に、新素材とそれに関連する生産技術の研究を強化している。
この研究所は、4つの部門に組織化されている。エネルギー技術と再生可能ソース部門、原子核技術、サステイナブル部門、エネルギー効率ユニット部門である。このうち、エネルギーと再生可能ソース部門では、技術と手法、プロセス製品、試作計画に関する研究開発を行っており、再生可能エネルギーの比率を上げ、エネルギー源(ソース)を中長期的に多様化させ、汚染物質の排出を削減し、エネルギーの脱炭素化を進めていき、エネルギー効率を高めエネルギーコストを減らしていく。これらの部門では、ソーラーエネルギーの太陽電池や、集光型/非集光型ソーラー熱エネルギー、全水素エネルギーのバリューチェーン(すなわち電解質の改質やストレージシステム、燃料電池など)、バッテリを含むさまざまなエンルギーのストレージシステムを研究している。
さらにグリーン水素のようなきれいなエネルギーキャリアの生産や、新太陽電池の積極的な設置も見据えている。クリーンエネルギーに集中する持続可能開発モデルを統合し、再エネのバリューチェーンの全ての部門を強化する。このような見地から、太陽電池のバリューチェーンの中の民間での投資機会は、太陽電池セルとモジュール製造の分野での国内企業の成長を促すことにある。長年の次世代太陽電池セルやモジュールを製造する専門知識があるため、高効率なタンデム構造、例えばシリコンとペロブスカイト材料を重ねた構造などに注力できる。また、集光型太陽熱システムでは、従来の透熱オイルに代わり、熱輸送流体や蓄熱材料を混合した溶融塩やその混合物質も研究している。
水素技術に対して1990年代後期から水素を利用する研究開発をやってきているという。水素製造のさまざまな異なる方法、すなわち炭素質材料や、それを使った熱化学および熱電気技術などを探求してきた。
水素に関する研究では、国から1億ユーロの資金支援を受諾することで、イタリアの環境・エネルギー安全保障省と国家プロジェクトを実行することで合意した。水素のバリューチェーンにおいて、グリーンでクリーンな生産や配送、保存をエンドユーザーに至るまで、産業界や市民の居住建物、輸送、重軽工業、鉄道、海運、航空などの分野で運用する。
エネルギー保存システムとしての開発では、熱処理や電気化学(バッテリ)プロセスが再生可能エネルギー源の成長には重要である。ここではバッテリのバリューチェーン全体をカバーする。新材料の開発から先端バッテリシステムまでサステナビリティと性能、安全性を長期間にわたって確認する。さらに、将来の革新的なエネルギーシステムにおけるさまざまな応用分野に向けデジタル技術の開発をサポートすることも活発に行われている。例えば、太陽電池システムでは、正常・異常検出にAIを使ってモニタリングする、またデジタルツイン技術のような革新的なモデル技術を使って、先端的な予知技術を活用する。つまり、デジタル技術を横断的に利用していく。
イタリア国内外の研究所や大学とコラボしているが、コラボを形成していくことが重要だとGraditi氏は考えている。ゴールに向けて一緒に議論や意見交換する必要ある。知識の移転や技術の移転が容易にするためだ。
イタリアは最近、「国内エネルギー・気象統合計画」をアップデートし、24年6月に最新文書をECに提出した。包括的な目的は、サステイナブルな将来の低炭素の国を推進する重要な分野の進展を加速させることだ。
更新された計画書では、ソーラー、風力、水素による電力など再エネによる電力の生産を拡大することを強くコミットしている。バイオメタンや水素などの再生可能燃料の生産と使用も優先事項の上位にある。
この計画には、新たな再生可能エネルギープロジェクトの許認可手続きを合理化し、サイバーセキュリティを考慮したデジタル技術の導入を通じて電力網インフラを強化し、再生可能エネルギー源の変動を緩和するエネルギー貯蔵システムの開発を促進するための具体的な措置も含まれている。
再生可能な燃料では、食料にならない作物や廃棄物からのバイオ燃料の使用増加が輸送分野で奨励されている。これらは電動化できない既存の車両からのCO2排出量をバイオ燃料によって削減すると考えられているためである。特に航空や船舶ではまだ電動化が現実的でないため、バイオ燃料を混合した物質として使うことでCO2排出量削減に貢献する。
地中海地方はソーラーや風力に適している。グリーン水素やグリーン燃料などのソーラーベースの再生可能燃料の開発、生産、販売には向いている。つまりイタリアに適したソーラーリソースや、戦略的な地域の位置は、グリーン水素やグリーンアンモニア、さらに液化合成炭化水素など再エネ燃料の輸出入に適した重要な拠点になりうる。
Graditi氏はMEDENER(Mediterranean Association of National Agencies for Energy Management)の代表でもある。この組織は、地中海地域における各国の政府機関同士をつなぎ、エネルギー効率や再生可能エネルギー源、新エネルギーの方向を追求する。さらに、この地域でエネルギー管理政策の実行を設計するための支援も行う。
国際的なコラボレーションと水平分業の協力は、知識やデータ、ベストプラクティスの共有などに加え、標準規格を調和させ、研究とイノベーションへの投資を最大化させるという。政府間の協力も積極的に行われており、研究所間でも外国の省庁とイタリアの省庁ともコラボレーションしている。
また、欧州域外の国とも関心のあるテーマで協力している。例えば、オーストラリア国立大学や中国科学院、テキサス技術大学、エクアドルの国立エネルギー効率・再生可能エネルギー研究所(INER)、キューバのバイオテクノロジー・製薬産業(BioCubaFarma)、セネガルのANER(Agence Nationale pour les Energies Renouvelables)、インドのエネルギーソース研究所、インドのMadan Mohan Malaviya 技術大学、韓国の電子通信研究所、日本の東芝とNEDOなどだ。
これまで日本で開催されてきたRD20にはGraditi氏も出席してきた。今度も参加したいという。「RD20では、気象変動に対処するためのクリーンなエネルギーへの変換という視点で見てきた。幅広い意見や戦略をつなぐという役割がある。主要な目標となる化石燃料から再生可能エネルギーへの変換の技術やソリューションなどのテーマが欠かせない」と見ている。
情報やアイデア、知識、経験の共有を増やすために互いにやり取りする機会を増やすことが重要となる。「RD20は、ユニークなプラットフォームを提供することでこういったコラボのニーズに対処している。世界中の研究所が望んでいることだと思う。人脈形成や知識の交換などにも有効でとても重要だ。」という。RD20は、政府や国際的なディシジョンメーカーにとって世界の政策に影響を及ぼすような価値のある見識やガイダンスが得られる。
インドは、13.6億人の人口を持つ国であり、経済発展が著しい。都市化が進み、製造業も発展している。それに伴い、エネルギーの需要も急速に増えている。石炭はまだ主要なエネルギー減となっている。インド政府はエネルギー市場を改革しながら、電気やクリーンエネルギーへに向けており、再生可能エネルギーを電力網へ統合しようとしている。インドでのRD20の開催は、会議の参加者を広げる良い機会となり、さまざまなシェアホルダーやスポンサ―に有用なイベントになるだろうと期待する。
セミコンポータル 編集長 津田建二