Special Interviews
2024.11.06
第19回
第6回 RD20:各国省庁と直接調整しながら水素社会の実現目指すIPHE事務局
Dr. Laurent Antoni, Executive Director, IPHE
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第6回 RD20:各国省庁と直接調整しながら水素社会の実現目指すIPHE事務局

IPHE(International Partnership for Hydrogen and Fuel Cells in the Economy)は各国の政府間同士をつなぎ、各国省庁と直接話をしながら、未来の水素社会を作るために調整する連携関係である。2003年11月に設立され、水素と燃料電池を利用するクリーンで効率の高いエネルギーや移動システムへの転換を促進・加速する社会を実現するための国際的なパートナーシップである。ではどうやって、この組織は未来の水素社会を実現していくのだろうか。IPHEのエグゼクティブディレクターであるLaurent Antoni博士に聞いた。

IPHE
エグゼクティブディレクター
Laurent Antoni博士

IPHEは、各国の政府省庁レベルで水素社会に向けた研究開発や規約、標準仕様、安全性について情報交換しコラボレーションを進めていくためのパートナーシップとして生まれた。この当時、今から20年前の水素は、今日ほどブームではなかったが、それでも15~16ヵ国の政府が参加した。長年にわたり、水素社会への実現を呼び掛けてきた結果、現在では23カ国とEUの24のメンバーが参加している。このうちG7諸国は全て、G20諸国の中でも14カ国がメンバーとなっている。

各国の省庁単位では、日本は経済産業省が代表の機関となっている。国によっては科学・技術省だったり、エネルギー省あるいは経済省だったりするが、全て公的機関である。また公的機関の中には大学や国立研究所、国の機関なども含まれており、政府同士のパートナーシップとなっている。政府間のパートナーシップの事務局の役割を果たすのがIPHEである。

各国同士のコラボで水素社会を目指す

20年前、IPHEが創設された当時は、水素経済を開発し各国とのコラボレーションを育てていく必要があった。このため、研究開発と、規約、標準化に注力していた。現在は、研究開発はもはや進んだため、研究開発よりは実行性、創造性、貿易、認証などに力を注いでいる。Mission Innovationが研究開発やイノベーションをサポートしているため、IPHEはそれ以外を担当している。市場を生み出す方法に注力し、市場創生を阻害する規制や規約、標準化、貿易上のルール、スキル開発、安全性などのボトルネックに注力している。

IPHEの目的は、水素社会に向け知識の共有や政府レベルでの政策、戦略、規制の共有などが第一となっている。これによってあらゆる国が他の国の事情を知ることができるようになる。各国の研究開発レベルや新標準、新規制などがどうなっているか、をモニターし続けている。

各国でコラボレーションできるいくつかのテーマを決めるためのワーキンググループ(WG)とタスクフォース(TF)が8つある。例えば教育と支援のWGや規制、コード、標準化、安全のWG、水素の環境への影響分析のTFなどだ。これらのグループで議論したあと、IEA(国際エネルギー機関)やUNIDO(国際連合工業開発機関)、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)、Mission Innovation、WTO(世界貿易機関)などと情報を共有し仲間を増やしていく。

TFでは例えば海運業での燃料としての水素を運搬したり使ったりする場合に備えたテーマがある。ここでは水素や地下に保存するための規制を作る必要がある、日本は地震大国なので水素の地中保存は適していないが、洞窟の中に保存している国もある。つまり各国の事情が異なるのだ。

言葉や意味の違いを揃えよう

規制と一口に言っても、各国で捉え方が違う場合もある。例えば「クリーン水素」や、下記のIEAの推奨する「低排出水素」という言葉は各国で違うようだ。水素を生産するときに脱カーボン社会に貢献している水素をIPHEでは「クリーン水素」と呼んでいる。また、水素の素晴らしさは、誰でも作り出せるという民主的な材料にある。あらゆる国が水素を将来のエネルギー源として使えるため、大量に消費する国と生み出す国が出てくると貿易が成り立つ。例えば日本やドイツは消費国だろう。水素を取引する場合、少なくとも言語を定義し共通化しておく必要がある。

さらに「『低排出水素』が、再生可能エネルギーで生産されたものか、バイオマスあるいはバイオガスなどで生産されたものか、といった認証が求められるだろう。だからこそ、低排出水素をきちんと定義し、認証プロセスを加えて、標準化しなければならない。認証を通じて水素を取引することができる」、とAntoni氏は語る。

クリーン水素かどうかを認定する場合、水素生産時に発生するGHG(グリーンハウスガス)排出量を定量化しなければならない。これをできる限り少なくするようにしなければならない。この考え方は、これまでの水素は化石燃料を使って水素を生産してきたことに基づく。水素生産時のカーボンフットプリント、すなわちグリーンハウスガス排出量の測定が重要になる、という。

「ここで再生可能とは、電気分解によって水素を発生させるために使う再生可能な電気を使うことを意味する。また低カーボンとは、原子力や化石燃料のいずれかで水素を生産するが、CCUS(Carbon Capture Utilization and Storage)と呼ばれるCO2の回収・利用・貯留も使うという意味だ」とAntonio氏は述べる。

IPHEはグリーンハウスガス排出量を共通の方法で定量化しようというガイドラインを作成し、2年前にそれをISO(国際標準化機構)に提出した。2025年までにISOの標準化案になるだろう、とAntoni氏は期待する。

さて、次は認証方式の検討になる。これも20~30の体系が世界にはある。多数の認証方式をどうやって各国が理解するようにすべきだろうか。各国で行われている認証方式の何が共通で何が違うのかを求めて、統一した方式を創り出すことはそう簡単ではない。日本の体系を欧州で認証してみる、あるいはその逆を試してみることもあるが、まずは認証体系を相互に認め合う方向へ動き出した。その意図を宣言することを昨年のCOP28で提案、39カ国がサインした。これからIPHEさらにIEA Hydrogen TCP(国際エネルギー機関水素技術協力プログラム)を経て。各国で協力していくことになる。

IPHEはまさにグローバルなパートナーシップなのだ。基本的にはウェブミーティングでディスカッションすることが多いが、年に2回の運営委員会を対面で開催する。今年の3月にはインドのニューデリーで開催、次はベルギーのブリュッセルで行われる。また、サイトビジットもある。1年前、現在のIPHEの代表(Chair)国である南アフリカ共和国の水素燃料トラックを使ったプラチナ鉱山を訪問した。ちなみに副代表は日本、米国、オランダのメンバーである。

RD20と重複しないことを確認

RD20は国立研究所を対象とした統一的な組織であり、研究開発を主体としている。IPHEは特定の研究開発に関してはタッチしない。CEA-Litenの同僚はこれまでもRD20に参加したが、CEA-Litenは研究所だからだ。しかし、IPHEは研究開発を扱わないため、IPHEのエグゼクティブディレクターである自分はRD20に参加したことがない。しかし、今回東京シンポジウムでは招待されたため、IPHEのことを理解してもらうため講演の機会をいただいた。

ただ、IPHEにとって、RD20は協調するという意味と、重複しないことを確認する意味がある。特に低排出水素に関しては、R&Dにフォーカスするクリーン水素のMission Innovationと重複していないことを確認できる場としての意味もある。そのためにMission Innovation を通して、R&D活動を知っておく必要もある。ただし、12月のインドにおけるRD20へは参加しない。

セミコンポータル 編集長 津田建二