Special Interviews
2024.11.26
第20回
第6回 RD20:国際連携を通じ、技術水準の向上を図るアルゼンチンのINTI
Ms. Liliana Beatriz Molina TIRADO Deputy Director of Energy & Mobility, Innovation & Technology Development Management Division, INTI
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第6回 RD20:国際連携を通じ、技術水準の向上を図るアルゼンチンのINTI

アルゼンチンの国立研究所であるINTI(National Institute of Industrial Technology)は食品から大気、食肉、バイオテクノロジー、エネルギー、工業デザインなどの研究を行っている。これら様々な産業への技術移転や、測定技術の強化、各生産分野でのイノベーションの促進などサービスを提供する。INTIのイノベーション&技術開発管理部門の副エネルギー&モビリティ長のLiliana Beatriz Molina TIRADO氏にこの研究所の役割やRD20への印象などを聞いた。

INTI, イノベーション&技術開発管理部門, 副エネルギー&モビリティ長
Liliana Beatriz Molina TIRADO氏

INTIには3000名のスタッフが働いており、その内95%が技術スタッフという国立の研究所だ。創立が1957年であり、アルゼンチン政府の経済省傘下の国立研究所になる。その目的は、多くの産業界の発展を支援することであり、技術を開発しそれを産業界に移転する。さらに計測技術を強化し、イノベーションを促進する。

アルゼンチンは23の県からなり、各県に最低1カ所以上の研究センターを持っている。INTIは、それらのネットワークを形成しつないでいる。全国各地の技術センターは、各地方の産業に必要な技術を開発している。例えば、インダストリ4.0を専門に研究開発しているところもある。技術だけではなく、各地方に必要な産業技術の問題を支援するための法的な機関ともつながっているという。

Liliana Molina氏は、エネルギーとモビリティを所管する。この部門では、企業の競争力とサステナビリティを強化することに取り組んでいる。革新的な製品の開発を通して特に中小企業を支援すると共に、GHG(温室効果ガス)排出量を減らすために有効なプロセスについても支援する。エネルギーとモビリティ部門が取り組んでいる主な技術は次の通りである;

  1. バイオエネルギー、家庭用太陽集光機、ソーラーパネル、低電力の風力発電タービン
  2. エネルギーの保存と変換技術
  3. スマートグリッドの集積化
  4. モビリティ
  5. エネルギー効率の向上

アルゼンチンでは、2020年末に持続可能な社会を推進するための国家目標NDC(Nationally Determined Contribution)を定め、2030年までにCO2排出量を483メガトン(Mt)から349Mtに削減するという目標を掲げている。2050年にはカーボンニュートラルを実現するという目標ももちろんある。そのためにエネルギーから農業、林業、畜産業、交通運輸、工業、公共インフラなどの分野に渡って、気候変動に対処するため、国家実行計画に沿って行動していく。

アルゼンチンでのGHG排出で大きいのは主に化石燃料による電力と熱の生成、そして交通機関である。そこで、エネルギーの多様化として再生可能エネルギーを増やすと共に、エネルギー効率を上げることも進めていく。現在、再生可能エネルギーによる電力は18%占めているが、2025年までに25%に持っていくというアグレッシブな計画だ。さらに、エネルギー転換も進めており、グリーンおよびブルー水素の産業生産やリチウムイオン電池、電動車などの研究も進めている。INTIは、工業界の脱炭素プロセスを支援し、技術的なソリューションを他の産業にも提供する。

積極的な国際連携

RD20が掲げる目的の一つである国際連携に関しても推進している。国際連携として、産業界への技術移転や科学技術の協力、そして中小企業の国際化という三つの戦略を掲げている。生産技術の知識や革新技術などを発展途上国へ移転したり、科学技術の知識を増やしたり共同のイノベーションプロセスなどに参加したりする。さらに中小企業の技術イノベーションを支援して輸出を増やすことにつなげていく。

具体的な提携として、まず日本との間では、JICA(国際協力機構)と中小企業数社に導入されたクリーンエネルギー技術の開発プログラムや、INTIの2名の博士課程の研究者を産業技術研究所に派遣し、エネルギー変換に優れた材料の共同研究について検討してきた。Liliana Molina氏もかつて日本に二度来たことがある。一度はバイオマスの研究で沖縄、そして二度目は水素の研究で関東地方にやってきたという。INTIは日本との共同研究も多く、「改善」をテーマにした研究もあったとしている。

日本以外では、イスラエル工科大学との間で「交換水素変換技術のアニオン交換メンブレン」の研究テーマについて共同研究をしており、メキシコのCINVSTAV(国立工科大学高等研究所)との間で「グリーン水素生成のためのソーラーと電解装置の統合システムの開発」で共同研究をしている。

スペイン語圏の中南米諸国とも、政府間イニシアティブとして南米・南米協力とトライアングル協力を狙ったPIFCSS(The Ibero-American Program for the Strengthening of South-South Cooperation)プログラムを進めており、SDGs(国連が定めた17項目の持続可能な開発目標)を掲げている。また、欧州の2021年から27年までのHorizon Europeプログラムにも参加している。

RD20は国際連携上、重要な機会

アルゼンチンは、日本や米国、欧州などの研究活動を常にウォッチしながら、その活動状況を発展途上の南米諸国やアフリカにも伝えている。つまり発展途上国の底上げを図り、先進国と並ぼうとしているように見える。INTIの役割は、国際連携で自国の技術を強化するだけではなく、南米やアフリカ全体の底上げに貢献しようとしているといえそうだ。

これまで日本で開催されてきたRD20に対する同氏の評価は高い。「産総研は、INTIが気候変動という問題に取り組んできた知識から、これからの取り組みをみんなで議論する機会を提供してくれた」とLiliana Molina氏は答えている。また、「RD20は、いろいろ異なる国々で行われている研究活動を知る機会となっているため、INTIがグローバルな問題を解決するための研究を推進できる」と評価は高い。

セミコンポータル 編集長 津田建二