韓国エネルギー技術研究院(KIER)は1977年9月にその前身組織が設立されて以来、エネルギー関連の研究成果を通じて韓国経済を支える、という中核的使命を果たしてきた。
またその一環として、エネルギー安全保障、経済成長、環境を保護するための合理的なエネルギー施策の開発を目的とする多国間イニシアチブに積極的に参加し、韓国エネルギー部門の世界における地位の確保に向けた役割を果たすことを目指している。RD20もその活動の一例である。
韓国エネルギー技術研究院 グローバル戦略チーム長Sangjin Choi氏に、KIERが果たす韓国エネルギー部門の役割や第7回RD20国際会議 2025への意気込みについてお話を伺った。
韓国科学技術情報通信部(MSIT)を主管とするKIERは、グローバル戦略チーム長を務めSangin Choi博士が説明するように、韓国政府が出資する研究機関の一つ。資金の約半分は政府が直接拠出しており、残りの半分は研究開発契約等による収入となっている。
KIERのChang-Keun Yi院長によると、前身の韓国省エネルギー研究所として設立されたKIERは、当初より、韓国のエネルギー安全保障とカーボンニュートラル関連の課題の両方に対処する研究活動の主導的役割を担うことを使命としている。その目標は、KIERがいう「Kエネルギー」を推進することである。すなわち、世界の主なエネルギー課題を解決するために、韓国の技術・事業・製品・人材の融合によって、エネルギー技術のイノベーションを実現する。
KIERの活動は、本部のほか、水素、クリーンエネルギー、先端エネルギー技術、グローバルリサーチの4つの地域センターで行われている。またKIERは、技術の実用化の促進、中小企業の成長促進、エネルギー技術方策の策定、優れた技術の普及、という4つの機能を担っている。
KIERの目標は、企業に直接移転され、最終的にはグローバル市場へ広がっていくパッケージ化技術の創出を促進することにある。こうした取り組みを通じて、「Kエネルギー」を新たな韓国の成長エンジンとして確立していくことを目指している。
国内での活動に加え、KIERは、多くの諸外国の機関との連携も積極的に進めている、とChoi氏。また、これらパートナーの多くがRD20に加盟していることで、メンバーがRD20国際会議等で対面して連携を強化できるなど、関係者間の連携を深めるのにも役立っているという。
一例として、KIERは米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)と緊密な関係を築いてきたとChoi氏は指摘する。両機関の協力関係は数十年前から続いており、今年1月には再生可能エネルギーの研究と技術開発における連携に向けた最新の協力覚書(MOU)を締結。現在は、太陽光発電、水素、スマートグリッドに関する共同プロジェクトに向けた準備をしている。
Choi氏が挙げるもう一つの例が、独フラウンホーファー研究機構の材料・システム微細構造研究所(IMWS)、生産技術・応用マテリアル研究所(IFAM)、風力エネルギーシステム研究所(IWES)との間で結んだ一連の協定だ。ここでの目標は、KIERとフラウンホーファー研究機構の3つの研究所との間の水素、太陽光発電、風力エネルギーに関する交流を深めることである。
KIERの他の国際パートナーには、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)やカナダ国立研究機構(NRC)などがある。Choi氏によれば、KIERは産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)とも協力したい意向だ。
上述のような関係の一部はRD20創設以前から存在していたものかもしれないが、RD20は、これら関係の将来に向けての発展に大きな役割を果たしてきた、とChoi氏は指摘する。「RD20のおかげで、特にNREL、フラウンホーファー研究機構、NRCとは非常に強固なネットワークを構築できました。この強固なネットワークがあったおかげで、NRELとのMOUが更新しやすくなったといえるかもしれません。これは双方にとって非常に大きなコミットメントである。RD20イニシアチブのおかげで、KIERがNRELと緊密な関係を築くことができました。他の組織との関係構築にも同じことが言えるでしょう」と、Choi氏。
Choi氏は、第7回RD20国際会議2025では「エネルギー技術の革新、開発、普及に向けた研究を加速させるためのAIとデジタル化」のテーマのテクニカルセッションでモデレーターを務める予定だという。そんなChoi氏がRD20の将来を考える上で重要だと考えるのは、RD20の認知度を高めるということだ。肝心なのは、そうした取り組みは、RD20メンバー機関それぞれの国・地域から始めなければならない、と指摘する。
韓国を例に、Choi氏は次のように述べた。「これまで、われわれはRD20の会議などの情報をMSITや他の政府機関と共有してきました。彼らはRD20の存在自体は認識していますが、その重要性まではまだ理解していません。」韓国だけでなく、RD20の他のメンバー機関の各国政府でも認知度が上がれば、RD20を通じてプロジェクトをさらに推進するための資金を各研究機関がより多く獲得できるようになるのではないか、とChoi氏は考える。
これを実現する一つの方法は、RD20が明確な成果を生み出す活動をすることではないか、とChoi氏は指摘する。
「RD20国際会議では、2種類のセッションがあります。1つはRD20の方向性そのものに焦点を当てた各RD20メンバー機関のリーダーによるセッション。もう一方は、技術的なセッションやワークショップです。こちらは研究者が参加し、それぞれの専門分野のトピックや、クリーンエネルギーの中核技術といった具体的なテーマについて議論するものです。これまで、もっと発展させるべき分野について議論してきましたが、そろそろ具体的な成果を出す時だと思います」と、Choi氏。
Choi氏が提案するのは、明確な成果に焦点を当てた具体的で小規模なプロジェクトに取り組むことだ。例えば、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)の分野であれば、二酸化炭素は韓国が回収を行い、オーストラリアや米国など、それを処理する能力がより大きい他国で貯留することが考えられる、とChoi氏は言う。こうしたタイプの小規模なプロジェクトであっても、各パートナー国の研究機関がそれぞれの資金提供機関に対し、RD20を通じて活動することの意義を示すための証拠をもたらし得る、というのがChoi氏の考えだ。
RD20が設立されてからすでに6年ほど経つが、RD20アクションコミッティーのメンバーが、それぞれ自国における所属機関での多忙な業務を抱えながらもRD20を前進させるために尽力している姿にChoi氏は非常に感銘を受けているという。Choi氏は最近、同コミッティーのオブザーバーに就任したが、各メンバーの尽力に対する賞賛を表明した。
Choi氏はまた、RD20を継続するために産総研が行ってきた活動へ謝意を表明するとともに、本会議が活発な議論の場となり、RD20が主導的に進めている取り組みへの認知度向上につながることを期待する、と述べた。