Special Interviews
2025.11.20
第25回
2025年第7回RD20:水素を持続可能にし、エネルギー転換の中心にするための協働
Dr. Julie Mougin, Deputy Director for Hydrogen Technologies, CEA
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2025年第7回RD20:水素を持続可能にし、エネルギー転換の中心にするための協働

Julie Mougin博士は、フランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA)で水素技術担当副ディレクター務めるが、すべての元素の中で最も豊富に存在する水素の研究は、実は最初から自分の専門だったわけではないのだという。
「水素だけが私の天職だとは言えませんね」とMougin氏は笑顔で語る。「材料科学には最初から魅了されていましたし、水素技術はナノスケールからマクロスケールに至るまで、材料科学の知見を必要とする分野です。」
また、自動車市場に関連する材料の産業調査に従事していた時には、神戸製鋼所との共同研究プロジェクトに4年間取り組む機会を得た。この経験が、国際的かつ協調的な環境で働くことの魅力を知るきっかけとなったと氏は語る。
その後、2005年にCEAで水素にかかわる欧州のプロジェクトに携わる機会がめぐってきたときに、迷わずそれを受け入れた。Mougin氏が2010年から指揮してきた研究所では、バリューチェーン全体にわたる水素の諸技術(製造、貯蔵、燃料電池)に焦点を当てている。

フランス原子力・代替エネルギー庁
水素技術担当副ディレクター
Julie Mougin博士 © 産総研

IEAとRD20の連携

Mougin氏が自身の研究で水素分野への転換をする中、CEAは国際的な協働の取り組みを続けてきた。特に再生可能エネルギーの分野では、国際エネルギー機関(IEA)の水素技術協力プログラム(Hydrogen Technology Collaboration Programme: H2TCP)に参加している。Mougin氏によると、1977年に設立されたH2TCPの使命は、安全で持続可能かつ費用対効果の高い方法で水素技術の開発と実装を多様な分野で加速することだ。
現在、同プログラムの議長は同じくCEAのPaul Lucchese氏が務めており、Mougin氏自身はH2TCPの執行委員会のフランス代表を務めている。H2TCPには26の参加国が加盟し、製造、貯蔵、供給のための技術を進歩させ、また安全・規制・経済上の懸念などの問題に対処するために協力している。
さらに近年、CEAはRD20にも参画している。Mougin氏は、H2TCPとRD20という2つのイニシアチブは、エネルギー転換という共通の目標を共有していると指摘する。
「エネルギー転換には、再生可能エネルギー生成からエネルギー貯蔵(水素技術や電池など)、炭素回収、グリッド統合までをも含む、新技術の迅速な開発が必要なのです。」
これら2つのイニシアチブがこの分野において生み出すシナジーこそが、これら機関が連携するメリットを示しているのです、とMougin氏。
「例えば、どちらも技術経済性分析とライフサイクルの評価を行っています。私たちは、使用している方法論やその結果について議論することができるのです。両イニシアチブや、グローバルコミュニティにとっても価値があるかもしれません。」
こうした取り組みは、その性質上、多国間での協力が必要である、というのがMougin氏の主張だ。「個人的には、どの国も単独では成し遂げられないと思います。ベストプラクティス、成果、教訓を共有するためには、さまざまな専門知識、リソース、協力が必要であり、その方が効率的なのです。RD20のような国際的な協働は、エネルギー転換を加速させる、あるいはその加速に貢献するための良い機会を提供すると、私は心から信じています。」
実際、今年のRD20国際会議のリーダーズセッションにおけるMougin氏のプレゼンテーションは、H2TCPとRD20との連携可能性がテーマであった。H2TCPイニシアチブについての説明を背景に、技術経済性分析とライフサイクル評価、試験プロトコル、水素技術の高度化などの、両イニシアチブの連携可能性がある分野に焦点を当てることが意図するところであった。Mougin氏は講演を通じて、RD20とH2TCPとの連携に対する聴衆の興味を刺激できれば、と思っていたという。

試験中の高温蒸気電解モジュール © D. GUILLAUDIN / CEA
水素製造試験施設 © D. GUILLAUDIN / CEA

会議を超えた取り組み

RD20は、年次会議のほかにも、国際的な連携を促進する様々な活動を行っているとMougin氏。その一つが、国境だけでなく専門分野の境界も越えるプロジェクト、年一回開催される「サマースクール」である。2023年に開始されたこのプログラムは、Mougin氏にとって特に魅力的なのが、RD20国際会議と同様に、参加する学生や専門家がさまざまなバックグラウンドを持っているという点だ。
「太陽光発電の分野の人もいれば、電池分野の人もいるし、水素分野の人もいます。」
「ご存じの通り、私は水素分野の人間の一人です。一年のほとんどは水素分野の人にしか会うことはありません。太陽光発電の人はその分野の人には会います。分野の異なる研究者が一堂に会する機会は非常にまれなのです」と彼女は言う。
自分の分野を振り返って、彼女は次のように述べた。「水素技術は重要だと思います。しかし、私はそれが「万能薬」だとは思いません。単一の解決策はありません。エネルギー転換に貢献するためには、ソリューションの組み合わせが必要です。」他の分野で研究や仕事をしている人たちの話を聞く機会を持つことによって、相互作用や新しい着想が刺激される、というのが彼女の主張だ。
Mougin氏はサマースクールのほかにも、RD20の下で編成されたタスクフォースやワークショップも挙げた。前者では、太陽光発電や水素のライフサイクル評価などのトピックに取り組むタスクフォースは、協働を促進するための実践的な機会を提供している、と彼女は考えている。ワークショップについては、RD20に類似する他のイニシアチブの代表者がそれぞれの取り組みを発表し、国際協力の可能性を議論する場を引き続き提供してくれることを氏は期待している。RD20は、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)のジャパン・パビリオンにおいて、セミナーやラウンドテーブルに参加しているが、これはRD20の活動を広く一般に広める非常に有効な機会となっている。

ステークホルダーとの関係構築、資金を確保し、枠組みを形成することがカギ

Mougin氏の見解では、RD20のようなイニシアチブの今後の課題は協働ではない。関係者はそれぞれの状況に応じて異なる目標を持っているかもしれないが、基本的には、その誰もがクリーンエネルギーへの転換を達成するべく効率的な方法で技術を開発するという目標に向かってつき進んでおり、誰もが互いに協力することには前向きだ。
むしろ、政策立案者との連携を強化することがひとつのカギになるだろう、とMougin氏は言う。研究機関やその関連業界の代表者は、すでに頻繁に会合を持って互いの関心事項について議論を重ねており、目標は概ね一致していると彼女は言う。しかし、政策立案者との連携に関しては、国際、国内、地域のいずれのレベルでも改善の余地は依然大きい。
より一般的な観点から、研究者や機関どうしの協働のための実用的な枠組みをより具体的に定義する必要がある、とMougin氏は付け加える。特に、具体的な目標を追求するためには、資金を確保する必要がある、と彼女は主張する。
「専門家に時間を割いて欲しいなら、場合によっては、数回の会議にとどまらず相当な時間をかけて作業してもらうことになり、それ相当の資金が必要です」とMougin氏。「この国際会議に参加している人たちは、参加すること自体に興味を持っています。知識を共有したいという気持ちもあります。しかし、資金提供のあるプロジェクトと、ないプロジェクトのどちらに取り組むか判断する段階になると…」そこまで言うと、彼女の声は小さくなっていった。
要するに「主な課題は、共に仕事をする良い時間を過ごすために、きちんとした枠組みを持つことと、ある程度の資金を持つことです」とMougin氏は言う。RD20やIEAのH2TCPで提案されているような協働は非常に重要であり、関係者はそれを実現するための現実的な条件を整えなければならない、と彼女は述べた。