第6回 RD20(Research and Development 20 for Clean Energy Technologies)は初めて日本を離れ、海外、それもインドのニューデリーで2024年12月2日~6日に開催する。ニューデリーにはインドの主要中央研究所TERI(The Energy and Resources Institute)がある。昨年のRD20は福島で開催された。今回のRD20としては、その時の様子を紹介しながら、産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所(通称FREA: Fukushima Renewable Energy Institute、AIST)の所長、古谷博秀氏にRD20への取り組みについて伺った。
FREAは東日本大震災からの復興支援と、再生可能エネルギーに関する最先端の研究というミッションを掲げ、2014年4月に誕生した。風力、太陽光、水素、地中熱、地熱などの再生可能エネルギーの利用から、評価やデバイス、システム製作、さらにはストレージ、輸送、そして系統連携への接続に至る再生可能エネルギー・チェーンを網羅している。国からの交付金だけではなく、民間企業からの委託研究費や共同研究費も加え、再エネの全ての実証実験を展開している。
2023年は、福島でのRD20開催前に東京で、「ギガトン水素ワークショップ」を開催したが、そのホスト役を古谷氏が担当した。ギガトンワークショップは、もともと米国NREL(米国立再生可能エネルギー研究所)および、ドイツFraunhofer研究所との議論で進めてきたが、前回は、EU(欧州連合)のJRC(共同研究センター)、オーストラリアのCSIRO(コモンウェルズ州科学産業研究所)、英国Oxford大学、インドネシアのBRIN(国立研究イノベーション研究所)、サウジアラビアのKAUST(アブドラ王立科学技術大学)、今回のホストとなるインドのTERIなど、RD20を構成する他の多くの研究機関からも参加され、全体的にカーボンニュートラルに行き着くためには水素の利用はとても重要であることで、意見が一致することを確認したという。水素エネルギーをいかにして拡大するかが重要で、作る、貯める、運ぶ、使うという一連の工程に渡って検討していく必要がある。ただ、各国の得意不得意があるため、それぞれが得意な方法で、適切なサイズ感で進めていくことになる。つまり各国の違いをみんなが認識しながら、水素の大規模化という方向ではみんなが同じ方向を向くことになった。
また、福島のFREAにはRD20に参加した外国からの研究者も訪問した。初めて訪問した外国の研究者たちは、再エネから水素ネットワークまでシステムティックにつながっていることに感嘆の声を上げたという。ただし、NRELやFraunhoferの研究者たちとは、初めてではなく、これまでも何度と一緒にディスカッションしてきた仲なので驚きはしなかったが、新しい装置には興味を示していたという。
昨年東京で開催されたギガトンワークショップでは、コラボレーションの必要性が強くなっていた。カーボンニュートラルを考えると、エネルギーを電化していくことになるだろうとして、ソーラーや風力などの再生可能エネルギーは電気に変換でき、拡大しやすい面はある。しかし工場などでは一定量の燃料を燃やさなければならないという制約があるので、ここには水素になるだろう。その量は積み上げるとかなりの量になるので、コラボレーションして早く立ち上げようという意見が多かったという。そのためにシステム化、電解装置をいかに大きくするかだけではなく、それに使われる材料、ニッケルやイリジウム、白金など貴重な材料をいかに使うか、というテーマも重要になる。
特殊な議論として、最近話題になっているPFAS(Per- and polyfluoroalkyl substances: 有機フッ素化合物)についても一定の方向が見えたという。例えばPEM型水電解装置にフッ素系の材料が使われているが、この装置の水を飲料水にすることはないだろう。飲料水に使われている装置のPFASと、そうではない装置とのPFAS対策は異なるはずだ。水素発生装置のPFASについて規制を強めるべきではないという方向が見えたことは成果だという。つまり、PFASに関して人間が飲食するものは規制を強めるが、水素発生装置のようにそうではないものはその必要はないという意見が強かった。
実は1回目のギガトンワークショップは7年前に最初に東京で国際会議が開催され、水素を利用するプロジェクトとして始まったが、翌年ドイツで計画されたワークショップは新型コロナ感染の影響によって、しばらく中断していた。しかしRD20を機に水素の大型電解装置(図1)等水素に関する要望が強くなり、国際的にも連携の必要性について議論が求められ、昨年のギガトンワークショップが実質的に第2回目の会議となった。昨年は6年前の会議をレビューする形で話し合いが進み、現在、その時の議論を整理して論文に仕上げているところだという。NRELがリードして論文を書いており、今後公表していく。
日米欧の研究機関は、水素エネルギーを作る、貯める、使う、ことでそれぞれが進めていくが、共通部分は国際協力によって標準化していく。FREAはグリーンイノベーション基金の予算も国際的な標準化活動に費やしているので、国際協力による標準化は一つの柱として位置付けているという。
欧州は以前から巨大な電解装置を導入していたという経緯があり、米国では最近、装置の大型化に注力し始めているという。RD20ではGZR(産総研内にあるゼロエミッション国際共同研究センター)が中心に進めているが、水素関係は密に連絡を取りながら進めているという。
日本は資源の少ない国でエネルギー源が少ないため、国内だけでまかなうことには無理がある。輸入したソース、例えば水素なら、そのリニューアブル性や脱炭素性などをきちんと評価して使うことが重要になる。水素をどのような方法で持ってくるのか、高圧、アンモニア(NH3)、メタン(CH4)など何を選択するのか。カーボンニュートラルを維持して科学的な論拠で議論する下地を作っていく必要がある。その点、RD20での議論の場やNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization)の支援は大事だ。
一般論として、まだ早期の段階では国際連携できるが、ビジネスに近づくと連携は難しい。しかし、共通部分や標準化などでは連携できる。「自国でエネルギーを確立できるのは米国だけだから、日本は欧州と共に、水素をどのような形で運ぶか、運ぶ技術のインターフェイスを標準化しなければ困るので、今から始めていきたい」と古谷氏は語る。E-fuel、e-methane、アンモニアなのか、いろいろな形が考えられ、FREAでは全てに渡って試しているという。
「これまでの石炭から石油への転換、さらに天然ガスへの転換はそれぞれ30年かかっていたが、天然ガスから水素への転換はそんなに待っていられない。もっと早くしなければならないため、今できることを全てやっておく必要がある」と古谷氏は言う。こういったことを議論できるRD20やギガトンの場は意義のある場だ。RD20は国立研究所の集まりなので、各国政府に理解させる場でもある。
今年のRD20に期待することは「2030年まであと6年しかない。海外も日本もCO2を減らす研究開発の重要性をみんなで共有することに期待したい。当初はCO2を減らしてきたが、最近では戦争が勃発しCO2が再び増えてきたように思える。RD20は国立研究所の集まりなので、科学的な根拠に基づいて各国政府に理解してもらうことが重要だ。CO2の増加が懸念されるが、科学的なメッセージが重要になる」と古谷氏は結んだ。
セミコンポータル 編集長 津田建二