産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)は、2019年の第一回以来、RD20の運営を担当してきた。日本最大級の公的研究機関である産総研が注力するのは、日本の産業や社会に役立つ技術の創出と実用化、そして革新的技術アイデアと事業化の橋渡しである。
この4月、産総研は第6期中長期計画をスタートさせた。同中期計画の主な目的は、第5期に引き続き、社会問題の解決と日本の産業の競争力強化へと注いでいくことにあるという。では、産総研はどのように目的を実現していくのか。産総研 エネルギー・環境領域 領域長の松岡浩一氏にお話を伺った。
産総研は、社会課題の革新的な解決策の開発を目的として、この4月に7つの実装研究センターを設置した。大まかに言えば、これらのセンターは、エネルギー・環境・資源制約への対応、人口減少・高齢化社会への対応、レジリエントな社会の実現、という3つの社会問題に焦点を当てている。
特にエネルギー問題に関しては、RD20イニシアチブは、日本をはじめとする参加国・地域が社会に応用できるクリーンエネルギー関連技術を開発するための枠組みを提供するものだ、と松岡氏。主要な研究機関は、この枠組みの下で、研究課題についての意見交換や開発協力が行うことができる。
そうした交流の場の1つとして毎年開催されるRD20会議は、今年は9月30日から10月3日まで、日本で茨城県つくば市とオンラインで開催される予定だ。しかし、同会議や関連ワークショップだけが各参加機関を集結させる手段ではないと松岡氏は指摘する。ほかにも、アイデアや情報を交換する手段として、特定の技術に焦点を当て、特定のトピックに取り組むためのタスクフォースが設置されている。
現在、2つのタスクフォースがRD20イニシアチブを通じて活動している。1つは「PV(太陽光発電)性能評価に関するタスクフォース」だ。太陽光発電の利用を拡大させる新しい機器や技術の開発を目指す。松岡氏によれば、産総研以外では、米国のNREL(国立再生可能エネルギー研究所)、ドイツのFraunhofer ISE(フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所)、欧州のESTI(欧州太陽光発電試験施設)などの機関がこの取り組みに参加する。共同研究のプロセスでは、参加各機関でサンプルを共有したうえで、それぞれが測定や実験を行い、性能評価技術の国際整合性を検証する。松岡氏によると、こうした成果の共有は昨年9月に行われ、現在は学術誌に掲載するための共同執筆論文の準備が進められているという。
もう一方は「水素のライフサイクル評価タスクフォース」である。「ここで焦点をあてているのは、本質的にクリーンエネルギーである水素を生成し供給する方法だ。このタスクフォースのメンバーはすでに研究結果について3つの論文を発表している」と松岡氏は言う。
会議とタスクフォース以外では、2019年の「RD20リーダーズステートメント」における勧告の1つを実行することを目的に、RD20サマースクールを2023年に設立。その目的は、若手の研究者を一堂に集めた上で、シニアリーダーや基調講演者とともに、クリーンエネルギーへの転換を達成するために必要な研究開発業務に関する将来の協力を目的として、学び、議論し、ネットワーク作りをすることにある。
サマースクールの第1回目は2023年7月にフランスで、第2回目は翌年7月にインドネシアで開催された。今年は、NRELの主催にて米国コロラド州で開催され、若手研究者とシニア研究者計82名が参加。今年のテーマは「Energy Tech to Market Sprint Agenda」。参加者は、プロブレムステートメントのリストが配られたのち、11のグループに分かれて課題を明確にしたり、技術的解決策を検討したり、エコシステムへの影響を検討するなどした。
「老朽化したグリッドインフラによる、サービスの継続性への脅威」、「新しい産業設備に必要な緊急の電力需要」、「二酸化炭素回収の広い普及への高コスト課題」などがプロブレムステートメントとして提示された。
グループワークのほかには、エネルギー転換の世界的な動向、バイオエネルギー、二酸化炭素の回収・利用・貯留などのテーマについての講演が行われた。プログラムの最後には、シニア研究者を審査員として、グループワークで作成された技術的解決策の発表の中から最良のものが3つ選定された。
こうしたイベントは、RD20イニシアチブを通じてだけでなく、一般的に得られる最も価値のある結果の一つであるといえる。「こうした経験は、研究者がキャリアのどの段階にあるかには関係なく、有益なものである」と松岡氏は言う。さらに自身の過去を振り返り、「私はアメリカ、オーストラリア、スペインで研究に従事してきましたが、他国の人たちとの交流から学べることは、それぞれが異なる価値観を持ち、異なる研究手法や方法論を有している、ということなのです。人はそれぞれ違う仕方で物事を学んでいます。研究の発展と進歩のためには、このような経験が重要だと思う」と述べた。
産総研は、RD20のとりまとめ役としての役割にとどまらず、当然ながら組織自体でもクリーンエネルギーの取り組みにも積極的だ。グリーンイノベーションを積極的に推進しているほか、様々な規模のプロジェクトにRD20などを通じたパートナーと共同で、取り組んでいる。
この分野で産総研が取り組んでいる協働プロジェクトの一つが、カナデビア(旧日立造船)とのプロジェクトだ。共同研究の焦点は、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」と工場から排出される二酸化炭素を、両者が開発した触媒と接触させることによって「グリーンLPガス」を合成することである。
産総研はまた、建設大手の清水建設と共同で、水素をベースとする、建物向けのエネルギーシステムの開発にも取り組んでいる。松岡氏によると、この取り組みでは、水素貯蔵システムに水素貯蔵合金を使用して効率を高めることを狙う。このシステムでは、再生可能エネルギー由来の水素を水素貯蔵合金に貯蔵し、適切なときに水素を燃料電池に供給、建物に電力を供給することによって二酸化炭素排出量が削減される。
松岡氏によると、こうした取り組みやRD20の取り組みを通じ、産総研は、日本の産業力の強化だけでなく、環境・資源上の制約に対応しつつエネルギーを確保するなどの社会課題の解決を目指しているとのことである。「私はRD20が発足したときに事務局の一員だったので、関与できることは喜ばしく思っていますし、強い責任感を感じています。RD20の成功に向けてわれわれは全力を尽くしたいと思います」と、松岡氏は述べた。