2025年10月は、第7回RD20国際会議が筑波で開催された月だが、RD20のメンバー機関のひとつが80周年を迎える月でもある。南アフリカの科学産業研究機関CSIR(Council for Scientific and Industrial Research)だ。
CSIRスマート社会グループ幹部のSandile Malinga博士によると、同機関は1945年に設立され、2,000人超の職員を擁する国営の研究開発機関だ。この種の組織ではおそらくアフリカ大陸で最大だという。アフリカでは唯一のRD20メンバー機関であるCSIRは、2026年に首都プレトリアで第8回RD20国際会議を主催する予定だ。

南アフリカは今年、20カ国・地域(G20)の議長国を務めている。南アフリカは、G20議長国としてのテーマを「連帯、平等、持続可能性」と定め、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の2030年までの達成に向けて、各G20メンバーの各首脳らが、現在から2030年までの間に緊急に進展を図っていく必要があることを強調した。
Malinga氏によれば、そうした取り組みの一環として、今年南アフリカはG20のエネルギー転換ワーキンググループ(ETWG)を主導している。同ワーキンググループの活動は、CSIRがエネルギー転換についてRD20を通じて行ってきた活動に関連している、とMalinga氏は言う。その目的は、技術の効率化を図ることと、エネルギー移行によって地域社会がマイナスの影響を受けないようにすることだ。これは、来年CSIRがRD20国際会議を主催する際に焦点になると氏が考えている分野の1つだ。
CSIRは1945年10月5日、南アフリカ議会の科学研究評議会法第33号の下に正式に設立された。現在は、科学技術・イノベーション大臣の管轄下にある国家機関だ。「CSIRは発足当初から、幅広い分野に取り組むことによって、その活動が社会に貢献することを目的に、研究開発に力を入れてきました」と、Malinga氏。
Malinga氏によると、CSIRは、組織の構造は9つのクラスターで構成されており、大きく3つの部門に分類される。第1部門は、先端化学および生命科学で構成され、グリーンケミカル、先端農業・次世代食品、次世代医療などの分野を中心とした研究を行っている。第2部門は生産技術の高度化と国家安全保障を担っており、次世代製造技術、鉱業、先端防衛・安全保障技術などの分野をカバーする。残る第3部門が扱うのは、大まかに言えば「スマート社会」だ。特に持続可能性と生産性を高めるために、スマートプレースやスマートモビリティ、新技術やデジタル化の適用等の分野に取り組んでいる。
前述したように、RD20がエネルギー転換に重点を置いている点は、CSIRにとっては特に関心が高い部分だ、とMalinga氏は言う。南アフリカは、クリーンエネルギー分野における新技術、ソリューション、イノベーションを模索しているからだ。
CSIRのエネルギー研究センター ERC(Energy Research Centre)では、幅広いエネルギー関連の活動を通じてエネルギー効率とクリーンエネルギーという2大課題に取り組んでいる。ERCを通じて「水素、太陽光、風力といったエネルギー源を網羅し、わが国における最適な導入方法について検討しています。」と、Malinga氏。「また、資源マッピングを多数実施していることに加え、影響を受けやすい地域が環境破壊に至らないようにするため、環境面の懸念を配慮しつつ、エネルギーインフラをどのように開発するのが最善なのかを検討しています。」
もう一つの重要な資源は鉱物である、とMalinga氏。南アフリカは、クリーンエネルギーに直接関連するもの以外でも、エネルギー関連の資源に恵まれているという。南アフリカの鉱山から産出されるマンガンなどの鉱物は、生成されたクリーンエネルギーの貯蔵に必要なバッテリー技術にとって重要であると彼は指摘する。
「再生可能エネルギーは安定的には生成されません。発電可能なときに蓄えておいて、蓄えたエネルギーを発電できない時に利用できるようにする必要があります。そのためにバッテリー技術は非常に重要であり、我々が再生可能エネルギーへの移行を進める上で開発していくべきリソースなのです」とMalinga氏は説明する。
こうした関心分野を踏まえ、CSIRは、来年に予定されている第8回RD20国際会議を主催する機会を得たことに非常に感謝している、と、RD20アクションコミッティーのメンバーでもあるMalinga氏は言う。特に重要なのは、RD20国際会議がアフリカで開催されるのが今回初めてということである。そのことがRD20国際会議に新たな局面をもたらすとMalinga氏は考えている。
「第一に、そのことによってエネルギー転換とクリーンエネルギーの分野で、我が国南アフリカの地位が高まることになるでしょう。我々がこの会議を主催することには国家としての誇りがあります。第二に、アフリカ大陸全体の地位を向上させることにもなるということ、さらに重要なことは、現時点でRD20メンバー国以外のアフリカ諸国に機会を与えることになる、ということです。我々が会議を主催することで、それらの諸国が、少なくともテクニカルセッションにおいてオブザーバーとして招かれ、RD20にて行われている取り組みを目にする機会を得られることを我々は願っています。」こうした点をさらに説明して、Malinga氏は次のように付け加えた。
「RD20に参加するアフリカ諸国が増えれば、アフリカ大陸全体のために知識やアイデアが交換される機会もその分増えるでしょう。アフリカは、開発の観点からみると、世界の他の地域とはある程度異なる課題に直面しています。我々は最先端の技術を必要としていますが、そのためのスキルに欠けるケースがあります。国内に専門家はいますが、知識、情報、リソースの交換からは、常に得られるものがあります。南アフリカはもちろん他のアフリカ諸国への波及効果があると考えられ、会議が成功し、その影響力と他国との関係がさらに広がっていくよう、最善を尽くしたいと我々は考えています。」
2026年に取り組む具体的なテーマや重点分野については、本インタビューの時点では、2025年RD20国際会議の開催が差し迫っており、その最終準備が進められていたこともあり、まだ協議中とのことだった。ただ、来年に向けて検討されているトピックや分野は少なくとも3つあり、いずれも南アフリカの国家的優先事項に直接関連するものだという。
1つは水素だ。南アフリカは水素を生成するための資源の面で大きなポテンシャルを有しているため、水素は南アフリカにとって重要な課題であり、関連する要因や水素誘導体についての理解を深めることが今後重要になる、とMalinga氏は指摘する。具体的にいえば、南アフリカは水素の輸出国になることを目指しているが、市場の開発にはまだ多くの課題があることも認識している。関連課題をよりよく理解することは、自国の立場を確立するのに役立つと氏は言う。
2つ目は、合成燃料、そしてその製造に必要な資源の分野だ。Malinga氏によれば、南アフリカの航空部門と海運部門は、いずれもこの分野に対する関心が高い。南アフリカの航空部門は、特に、南アフリカと、南・北半球を問わず他の多くの場所との間を行き来するための移動距離が長いため、エネルギーの課題には敏感だという。そのため、同部門のニーズに対応することは、同国にとって非常に重要となる。
3つ目は、エネルギーの生産におけるデジタル化と人工知能の活用だ。Malinga氏によると、南アフリカの電力網は、送電ロスが大きいことが問題となっている。効率を改善する方法、とりわけ再生可能エネルギーを効率的に生成、貯蔵、再利用できるようにする方法を見つけることが大きな関心事だ。スマートメーターのようなツールを使ってエネルギーネットワークを監視し、問題を特定することは非常に重要な課題である。
RD20の枠組みの下で形成されたパートナーシップや協力関係は、以上のすべてにとって重要であるとMalinga氏は付け加える。国家の電源構成の観点からすると、南アフリカは石炭への依存度が非常に高く、政府統計によれば、依然としてその約73%を占めている。二酸化炭素削減、さらに2050年までに脱炭素化するという目標達成までの道のりは長く、そのためには、再生可能エネルギーの発電容量を拡大する必要がある、とMalinga氏は言う。RD20を通じてパートナーシップを形成し、南アフリカ独自の電力製造能力を発展し最適化していくことは、目標達成への道筋を確かなものにし、これらの目標とコミットメントを達成するために不可欠となるだろう。
また、グローバルノースとグローバルサウス間の格差もまた、パートナーシップの必要性を示唆している、とMalinga氏は言う。
「グローバルサウスは、グローバルノースと比較して、その大部分が開発途上のセクターです。サウスの多くの地域は、再生可能エネルギー資源や鉱物資源に恵まれていますが、そのかなりの部分が輸出されています。しかし、必要なのは単に資源を採掘することではなくて、地域の価値創造と付加価値向上(利益)を促進するパートナーシップ。それが重要なのです。」
将来を見据え、Malinga氏は、2026年のRD20国際会議が南アフリカの、そしておそらくは世界中の若者が前進するための道筋を示すことを期待している。南アフリカでは15歳から34歳までの約半数が失業者であり、再生可能エネルギー産業の発展は、雇用創出のための新たな道となる。
CSIRは最近、エネルギー転換に必要なスキルに関する報告を発表した、とMalinga氏は言う。このレポートでは、政策立案者や同セクターの企業に対し、求職者がこの成長分野で仕事を見つけるための訓練機会を提供するよう促すことが提言された。RD20サマースクールのようなイニシアチブを持つRD20が、再生可能エネルギー分野で働く将来の世代を育成する方法を見つける上で、重要な要因になり得るとMalinga氏は考えている。