Special Interviews
2025.12.17
第27回
2025年第7回RD20国際会議:研究分野・国・技術の境界を越える
Dr. Michael Colechin (Cultivate Innovation Ltd.), Dr. Tata Sutardi (BRIN), Dr. Emmanuel Baudrin (CNRS), Dr. Euis Djubaedah (BRIN), and Dr. Jehyun Lee (KIER)
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2025年第7回RD20国際会議:研究分野・国・技術の境界を越える

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)が主催した第7回RD20国際会議が、茨城県つくば市で9月30日から10月3日まで開催された。
最初の2日間に行われたテクニカルセッションでは、11カ国・24名の研究者と専門家がカーボンニュートラル技術や国際的な共同研究の可能性について議論した。このセッションでは、プレナリーセッションに加え、合成燃料、エネルギー貯蔵、エネルギーのためのAIとデジタル化の3つのテーマ別セッションが行われた。
今回のテクニカルセッションがどう受け止められたのか、また、第7回RD20国際会議の参加者が今後のイニシアティブにどのような期待を抱いているのかよりよく理解するため、会議に参加し、セッションでプレゼンテーションを行った5名の専門家に話を聞いた。

さまざまな国からのさまざまな視点

「この会議に参加して、色々な国の色々な視点について聞いたり、皆さんが経験していることと我々の英国での経験を比較したりすることは非常に有益なのです」と語るのは、Cultivate Innovation Ltd.の創設者でCEOの Michael Colechin博士だ。

Cultivate Innovation Ltd. CEO
Michael Colechin博士

燃焼工学を専門とするColechin氏は、特定の技術や解決策が他国でどのように開発されているのかについて知ることが刺激になると感じている。特に興味深かったのは、エネルギーの需給に関する相違点について学べたことだったという。
「英国における状況もあるため、我々は必要とされる解決策に非常に集中しがちです。私にとっては昨日(9月30日)、南アフリカの科学産業研究機関(CSIR)の代表者のプレゼンテーションでの、南アの状況についてのお話が、目から鱗が落ちるような内容でした。南アには、すべての技術を構築するためのリソースはありませんが、これは同時に南アが技術の潜在的な受益者として位置づけられることを意味します。つまり、南アは市場を揺るがす可能性があるということも意味しているのです」と、Colechin氏。「こうしたさまざまな視点について知ることができるのは本当に興味深い。それがこうした会議の最大の利点なのです。」

協働の機会を求めて

インドネシア国家研究イノベーション庁(BRIN)のエネルギー変換技術研究センターでディレクターを務めるTata Sutardi博士は「再生可能エネルギーに関して、各国には異なる可能性があります」と言う。「インドネシアには、バイオマス、太陽光、地熱など、再生可能エネルギーの潜在的な供給源はたくさんあります。しかしインドネシアは多くの島からなる群島国家です。再生可能エネルギーの導入には、我が国にとって大きな可能性だけでなく、課題も伴うのです。」

インドネシア国家研究イノベーション庁 (BRIN)
エネルギー変換技術研究センター ディレクター
Tata Sutardi博士

RD20国際会議のような場では、インドネシアのさらなる発展を念頭に、再生可能エネルギーでより技術の進んだ国との協力の機会を探ることを重視している、とSutardi氏は言う。より技術の進んだ国に共有してもらえることが多ければ、インドネシアの発展もそれだけ早まる、との考えだ。
Sutardi氏は次のように話す。「例えば現在、我々は、日本の住友重機械工業株式会社(住友重工)との協力でバイオマスボイラーの開発を進めています。インドネシアには空果房(Empty fruit bunch:EFB)のバイオマスに大きな潜在的可能性がありますが、既存のボイラーでこれを燃焼させることは困難です。そこで、住友重工にEFBの燃焼ができるボイラーの開発で協力いただく提案をしました。このような協力は双方の国の利益にかなうものであり、インドネシア国内での再生可能エネルギーの導入を加速させることに繋がります。また、他国と協働できるということは、ゼロから開発しなくてもよいということになります。」

さまざまな技術的アプローチの補完性

フランス国立科学研究センター(CNRS)のレドックスフロー電池研究ネットワークのディレクターも務めるEmmanuel Baudrin博士は、テクニカルセッションにおけるプレゼンテーションを見て、再生可能エネルギーの問題解決に向けた異なる技術的アプローチが、互いに補完し合うものなのだということを改めて認識したという。

フランス国立科学研究センター(CNRS)
レドックスフロー電池研究ネットワーク
ディレクター
Emmanuel Baudrin博士

電池について研究する材料科学と化学の専門家であるBaudrin氏にとって、他の分野で行われている研究について学ぶことは有意義であるだけでなく、次のようなことを再認識させるものだったという。「(電池の研究をしているにせよ、水素の分野で研究をしているにせよ)ここでのプレゼンテーションでは技術が互いに補完し合うことが示されていました。我々が競合関係にあるわけではなく、エネルギーを貯蔵するためのより良い方法を見つけるために、それぞれが取り組んでいることを理解することが重要です。」
会議の多様で包括的なアプローチは、このことを強調しているとBaudrin氏は感じたのだという。さらに以下のように付け加えた。「他の学会や会議とはだいぶ違います。この会議では、自分たちの研究を売り込む場ではなく、『これは面白いかもしれない』と共有する場なのです。こうした会議に参加できるのは本当に素晴らしいことです。」

協働が技術の壁を越える

「個人的に、この会議には非常にわくわくしています」と語るのは、BRINの上級研究員であるEuis Djubaedah博士だ。「参加者は、それぞれの国からの知識や情報を互いに共有しています。他の国の状況や、物事を前進させる技術についてたくさんのことを学んでいます。」

インドネシア国家研究イノベーション庁 (BRIN)
上級研究員
Euis Djubaedah博士

インドネシアにおけるエネルギー貯蔵開発に関する共著者としてのプレゼンテーションで示されたように、Djubaedah氏は、インドネシアにはこの分野の技術革新に喫緊の必要があるということに強い関心を寄せてきた。この分野でより進んだ技術を持つ他の国々の研究機関と協力できる機会があることを、RD20国際会議に参加したことで実感できたという。そうした協力が、開発においてインドネシアが直面している障壁を乗り越える助けになることをDjubaedah氏は期待している。
また、RD20国際会議のように、他の機関の代表者と直接会い、クリーンエネルギーやエネルギー転換を実現する方法について議論する機会を持つことは非常に有益であると考えている。
「クリーンエネルギーを支える新技術のモデルやパイロット計画を共同設計できればいいですね。皆が力を合わせれば実現できる、と心から信じています」とDjubaedah氏は述べた。

インサイダーによる「アウトサイダー」の視点

韓国エネルギー技術研究院(KIER)のJehyun Lee博士は、材料科学を専門とするが、物理的な材料を直接扱うよりも、コンピュータモデリングに研究の重点を置いている。
「実際に物を作ったり構築したりすることに関わる参加者が多い中で、私は論文や書類を扱って研究しているので、自分は少数派だと感じます」と、Lee氏。

韓国エネルギー技術研究院(KIER)
主任研究員
Jehyun Lee博士

そうした背景もあり、Lee氏は会議について二つの視点を持っていた。一つは材料科学者としての視点である。「多くの人が同じ研究課題に、それぞれ異なるアプローチで取り組んでいるのは興味深いですね」と語る。例えば、建物のエネルギー需要を再生可能エネルギーで対応する策について、一部の発表者が言及していた。KIERの研究者の中にもこの分野の研究をしている人がいるが、アプローチは大きく異なっているため、帰国後にRD20国際会議で得た知見を共有し、議論する予定、とのことだ。
一方で、現在モデリング研究に注力する者としての視点では、再生可能エネルギーに取り組む研究者の間に、自身の現在の研究分野の認知度をさらに高める必要があることにも気づいたと話す。
「最近、韓国政府と仕事をすることが多いのですが、彼らはどうすれば事務作業量を減らすことができるかについて関心を持っています。これは、すべての研究者にとって非常に有益なことだと思っています。データ駆動型分析についてのプレゼンテーションを行う機会を得られて、大変誇りに思いました」と、Lee氏。

研究分野・国・技術の垣根を越えて

RD20国際会議では、以上の参加者全員が共通して抱いていた見解がある。それは、この会議が「エネルギー転換」という目標に向けて、さまざまな国だけでなく、さまざまな分野や領域の研究について学ぶ機会を、参加者に提供したということ。RD20の取り組みが今後進んでいくにつれ、カーボンニュートラルの分野におけるさらなる進歩やイノベーションが期待されるだろう。